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作品名:FACELESS−生徒会特務執行部 Special Edition 作者:ジン 竜珠

第37回   CASE4・8
 女の拳の重さが、軽くなった。やはり、思った通りだ。
 璃依はアイテムの補助によって、普段以上の力を使える。換言すれば、普段はかけられているリミッターを外せるのだ。だが、この女は何らかの技術で自らリミッターを外せる。その鍵となるのは、おそらくおぞましいまでの妄執。
 それがあの時、「妖気のようなもの」として感じられたのだ。
 女が言った「私なりに全力が」というのは、そういう意味でもあった。
 ならば、この女も時間制限に縛られるはず。そんなに長い時間、リミッターを外せるわけはないからだ。特に、瞬発力を多用させれば、それだけ消耗も激しいはず。
 案の定、女の動きも鈍ってきた。璃依のインジケーターも、すでにピンク色の点滅をしているが。
「……じゃあ、あの時見せられなかった、必殺技……そのバージョンアップ版を見せてあげるわ!」
 璃依は、呼吸を整え、間合いを取った。そして、意識をチューニングし、女のいる方とは違う方へダッシュをかけた。

 白い影が踏み込み、俺に左脚の上段蹴りを喰らわせてきた。ガードなんて出来るほど、俺のスペックは高くない。その一撃は俺を吹っ飛ばした。あとで聞いたら、空中で、綺麗にきりもみ回転していたそうだ。
 俺が落としたのは、この部長と副部長がいた当時の、空手部の集合写真だ。学園のサイトの中から、女子空手部のものを選び、「ヒストリー」っていうのを見てた。そのぐらい強い部員がいるんなら、過去に賞でも取っていて、記念写真の一つもあるはず、と思ったからだ。
 ラッキーなことに、県大会優勝時の写真がアップしてあったんで、それを使った。俺としては、軽く一撃でも受ければ、向こうの無念を浄化できるって思ってたんだが……。
 白い影が光の粒になって、天井の方へ消えていくのを見ながら、俺は言った。
「……割に合わねえ……」
 首の筋、違えてねえといいけど。

 璃依はダッシュし、近くの防犯灯の支柱を駆け上がる。頭の中で「五倍」という言葉を繰り返しながら。
 そして、適当なところで、柱を蹴り、空中できりもみし、右の蹴りを女の左肩……正確には、首元を打った。
 苦鳴を上げ、女が地に叩きつけられる。うつぶせで首を押さえ、女が呻くのを見ながら、璃依は両手で女をひっくり返し、仰向けにした。そして、スカートのポケットから、いつかのエメラルドカラーのガラスがはめ込んであるトップがついた、ネックレスを出した。
 女の右頬を左手で撫で、耳元で囁いた。
「このエメラルド、あなたにこそ、ふさわしいわ。……この、身の程知らず」
 そして、ネックレスを女の胸元に置いた。
 璃依がはめているアイテムは、璃依のリミッター解除をするもの。ただ、全開にすると、璃依の体が壊れるので「二倍程度まで解放できる」という暗示が与えてあるのに過ぎない。マニュアルを読んで、そんなニュアンスを読み取った璃依は、自分の中に、ある種の「暗示公式」を作り、メンタルトレーニングを繰り返していた。
 インジケーターが消えた瞬間、これまで感じたことのない脱力感に襲われ、そのまま卒倒してしまったが、璃依の中には達成感にも似たものが生まれていた。


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