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作品名:FACELESS−生徒会特務執行部 Special Edition 作者:ジン 竜珠

第36回   CASE4・7
 太牙には先に行かせた。
 今日、この日のために、アイテムのマニュアルを読み直し、メンタルトレーニングをしてきたのだ。
「まさか、こんなに早くリベンジマッチが実現するとは、思わなかったわ」
 璃依は、いつかの女通り魔に宣言する。
 女が鼻で嗤うような息を漏らして、言った。
「よかったの、彼氏と一緒じゃなくて? 二対一でも、私は構わないのだけど?」
 璃依は拳を構える。
「『驕る平家は久しからず』って言葉、知ってる?」
 しばらくして、女が体勢を整える。
「……体がうずいてね。場所、どこにしようかと思ったけど、ここに来てみて正解。……あのヒーローに敬意を表(ひょう)して三分で片をつけてあげる」
「二分四十秒で充分」
 璃依はブレスレット、アンクレットのスイッチを入れた。

 俺たちの前で、白い影が演舞をしている。
「鮎見、なんかわかるか?」
 俺の言葉に、鮎見がちょっと眉根にしわを寄せる。
「動いていると、文字通り『気(・)が散る』から、捉えづらいって言ったでしょ?」
「そうだったな。志勇吾は?」
 ゴーグルのスペードマークを光らせて、志勇吾が答えた。
「十一年前、女子空手部、部長・塚田(つかだ)羽津(はづ)、副部長・日比谷(ひびや)芽久(めぐ)。芽久の目的は潰さねばならない……。これが限界だ」
 俺は、スマホを出し、空手の演武の動画を落とす。
 おそらく、今日の夕方、聞いた話が、真相だろう。だとすると、この白い影が打ちのめしたい相手をここに連れてくるのがいいが、それは不可能と言っていい。
 とすれば、いずれ復活することを承知の上で、ここは倒すしかねえ。
 俺はガントレットにスマホをセットした。インジケーターが緑色の光を放つ。
 勝負は三分間だ!

 女の動きには無駄がない。空手だということだが、純粋なものではないようだ。
 どうやら、太牙が聞いてきた話が、真実らしい。この女、様々な武術を吸収している気配がある。太牙の話で、それを予想した璃依は、積極的に打って出るのを控えた。
「どうしたの!? 防戦一方じゃない!」
 嘲笑を声に乗せ、女は時に蹴りを、時に拳を放ってくる。だが、その挑発に乗らず、璃依はひたすら、女の攻撃をいなすことに専念する。
 璃依の推測に間違いがなければ……。

 白い影は、残存している記憶の集合体とはいえ、めちゃくちゃ強い。こっちはあくまで落とした動画の情報を、一時的に俺に被せてるだけだからな。基礎的スペックが低かったら、どうにもならねえ。
 直接的な打撃はどうにか防げてるんだが、攻勢に出ることが出来ねえ。かといって、時間が経つと、向こうが「お前じゃない」とかいって、姿を消し、解決できねえ恐れもある。どうしたものか、と思っていたら。
「宇津くん!」
 と、鮎見の声がした。間合いを取ってそっちを見ると、鮎見が肩でゼェゼェ息をしながら、一枚の札を手にして叫んだ。
「立ち別れ いなばの山の 峰に生ふる まつとし聞かば 今帰り来む……! 結論だけ言うわ! 『部長が私を待ってるって聞いたから、今、ここに副部長が帰ってきました……』。これが、鍵よ……」
 言うやいなや、鮎見がダウンした。相当、集中したんだろう。っていうことは。
「そうか!」
 俺は一旦、スマホを外した。その瞬間、脱力感が襲ってきたが、それをこらえ、サイトを検索する。
「頼むから、アップしててくれよ……」
 祈る思いで、俺は画像を探す。
 影が変わらず俺を攻撃してるんで、それをかわしながら、チェックしていると。
「……やった、ラッキー!」
 目当ての画像を見つけた俺は、スマホをガントレットにセットする。ちなみに時間のカウンターはガントレットの中で進んでるんで、セットした瞬間、グリーンのインジケーターが点滅を始めた。
 俺は拳を構えて、宣言した。
「部長、この私、日比谷芽久に勝てると、本気で思ってるの!? それって、あんたの驕りよ! また、返り討ちにしてあげる!」
 …………。
 え?
 返り討ち?
 俺、そんなことこれっぽっちも思ってねえけど?
 ……ああ、そうか。夕方聞いた話が、頭に残っててこんなセリフが自然と口をついて出たのか。
 白い影から闘気が噴き上がるのが感じられた。
「……いや、ちょっと待って? 今のはなんていうか……!」
 影がステップを踏んだ。


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