そう思っていたら、何かを思い出したらしい、真条さんが言った。 「確か……。そう、確か十一年ぐらい前になるかなあ。あたしが美台学園を受験する頃だったんだけど、変な噂があったの」 「噂?」 と、俺と新田さんが言った。 「うん。その頃、通り魔が出没しててね? 素手で、相手を殴り倒すっていうやつ。で、その犯人、美台学園の生徒じゃないかっていう、変な噂が流れてて、パパとかママが『そんな物騒なところ、受験して大丈夫か』みたいな心配してたわ」 「通り魔……」 新田さんが呟いてから言う。 「そういえば、そんな話があったような気も……。通り魔といえば、今も、そんな噂が出てますよね?」 璃依を倒したやつだな。もしかして、なんか関係あるのか? でも、だとしたら、なんで今になって? 俺がその疑問を口にすると、真条さんが答えた。 「例えば、だけど。その生徒、高校卒業して、武者修行かなんかで海外へ行って、最近になって、帰国した。あるいは、何らかの理由で、最近になって、またそんな衝動が芽生えた」 「衝動?」と、俺は尋ねた。「なんですかね、衝動、って?」。 「うーん。想像だけど。海外じゃなくても、進学や就職なんかでしばらくこの街を離れてて、何らかの理由……例えば人事異動とかでこちらに帰ってきて、昔の感情とかが甦ってきた、とか」 ……。 有り得ない話じゃねえ。
新田さんと別れ、真条さんがBiShopへ帰るとき、俺に言った。イタズラっぽい笑みを浮かべて。 「ねえ、宇津っちゃん。璃依ちゃんとは、どうなってるの?」 「え? 璃依と? 何スか、それ?」 「またまたぁ!」 と、真条さんが俺を肘で小突く。 「端から見てると、いい雰囲気よ、君たち」 「……そういうんじゃないですよ。俺と璃依、幼稚園からのつきあいなんで、そういうのとか、ないです」 照れ隠しでも何でもない。本当に、俺と璃依は「そういう」関係じゃない。 「そうかなあ? 気心知れてて、意識しないだけで、まるで長年連れ添った夫婦みたいになってるわよ?」 そうかなあ? 「そう見えるだけでしょ? 本当に俺たち、幼馴染み以上じゃないですよ?」 俺がそう言うと、真条さんが「ンフフフ」と、妙な笑いを浮かべて言った。 「なんなら、試してみたら?」 「試す?」 「うん。璃依ちゃんに、なんかプレゼントするの。そうしたら、彼女が実は宇津っちゃんことを『男の子』として見てるのが、わかると思うわよ?」 ハハァン。この人の意図が読めてきた。 「せっかくですけど、お断りします。俺と璃依、本当に幼馴染み以上じゃないんで!」 この人、俺になんか買わせて、店の売り上げの足しにしようとしてるな? 「うにゅう〜」 と、真条さんが口を尖らせた。 その手に乗るかッ!
|
|