それから一週間。 一つの「不思議事件」が起きた。 「深夜、武道場で演舞を繰り広げる女子空手部員」だ。これについては、三年前に一度、当時のFACELESSメンバーが対応している。猿橋が真条さんに連絡を入れたら、たまたまその本人が近くに住んでいる、ということで、その日の放課後、俺は会いに行くことになった。 「よっ、宇津っちゃん、リーダーが板についてきたわねえ」 真条さんが勤めるアクセサリーショップ「BiShop」に顔を出すと、開口一番、真条さんがそんなことを言った。 「だから、俺、リーダーじゃないですって!」 真条さんが苦笑いを浮かべる。 「ああ、そうだったわ。一人だけ『帰宅部』で、時間の融通が利くから、『顔』みたいになってるんだった」 真条さんは、ショートカットで背の低い、どっちかというと、カワイイ系の人だ。童顔なんで、着ている服によっては今でも高校生に見られるらしい。 そして、今、彼女と一緒にいるのが、新田(にった)久美子(くみこ)さん。三年前当時、三年生で、例の「空手部女子」の一件に関わった人だ。この人も、どっちかって言うと、かわいい感じの人だ。俺より身長が高いけど。 「じゃあ、すいません、店長。休憩、入りまーす」 そんなことを言って、真条さんは俺と新田さんを連れて店の外に出た。行った先は、店の近くにある、緑地公園だ。
「私、当時、女子空手部にいたのね。それで、組み手、したの。倒せるかなあって。でもね」 ベンチに座り、俺は缶コーヒー、真条さんはペットボトルの乳酸菌飲料、新田さんは持参したマイボトルの自家製野菜ジュースを飲みながら、話をしていた。 新田さんが一口、飲み下した。 「何手か打ち合わせてたら、相手がいきなり、こんなことを言ったの。『お前じゃない』って」 「『お前じゃない』?」 俺は呟いた。奇妙なキーワードだ。まず、俺が頭に思い描いたのは。 「なんか、ライバル探してる、とか、ですかね?」 ライバルとの決着がつけられず、それが無念になってるとか? だが、新田さんは首を横に振る。 「そういうんじゃなかったなあ。私は『知る』能力は弱くて、『打つ』方が得意だったんだけど、それでも拳を打ち合わせて『想い』みたいなものがこっちに伝わったのね。その時感じたのは」 ちょっと考える素振りをしてから、新田さんは言った。 「こいつだけは、打ちのめさないとならない、みたいな使命感?」 「……なんですか、それ?」 うーん、と唸ってから、新田さんは答える。 「可能な限り、調べたの、連絡取れた女子空手部のOGの話とか聞いて。そしたらね、三年前の当時だから……。今から六年ぐらい前まで、伝説のように伝えられてる話があってね?」 真条さんが興味津々って感じで聞いた。 「伝説? なになに、それ?」 また野菜ジュースを一口の飲み下してから、新田さんは言った。 「いつの頃か、はっきりとはわからないけど、すごく強い副部長がいて、その人、強さを求めて自主退部したの。で他の武道系……男子の部活も含めて、見学とか体験入部とかしてたけど、それじゃ飽き足らなくて、街の道場に行って、教わってたって。で」 と、少し、言いよどんでから言った。 「これは本当に伝説だと思うけど。あちこちで喧嘩ふっかけてて、それを知った部長が彼女を止めようとしたけど、うまくいかなかったらしいって。返り討ちに遭って、大怪我したって」 俺と真条さんは顔を見合わせ、唸った。有り得ない話……ってわけでもないか……。
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