「何に見える?」 そこにあったのは、二重丸。中の丸から放射状に線が出てる。俺は率直に言った。 「なんかの花、かな?」 志勇吾と鮎見は「菊の花」って言ったが、「花」っていうのは、共通してた。 「これはイスラエルで使われているシンボルの一つだ。太陽を表すらしい。しかし、多くの者は『花』と答える」 太陽か。そう言われれば、そんな風にも見えるな。 「イスラエルで有名な王といえば、ダビデ王だろう。だが、もう一人、いる。……ソロモン王だ」 鮎見がちょっと考えて言った。 「ソロモン王っていったら、悪魔を使役して、莫大な財宝を持ってて、っていう伝説が……。……あ」 と、何かに気づいたように、鮎見が猿橋を見た。 猿橋が頷く。 「ソロモン王の秘宝は、我が国に流れたという伝説がある。つまり」 と、紙をまた見せた。 「Gフラワー……G(グレート)フラワーだ」 あ……。なるほど、ソロモン王の秘宝だったのか、乾誠介が手に入れたのは。 「さっきの生け贄の話だが。その被害者……もっとも、すべてが実際に死んだ数ではないが……それをよく見て欲しい」 計算し、俺は言った。 「えっと。まず、学園創立時に一人、そこから十五年ごとに一人だから……。六人じゃん。それがどうかしたか?」 その時、鮎見が咳払いした。 「宇津くん、一人忘れてる」 「え?」 「だから。そもそもY資金を手にするときに、一人、生け贄にしてるでしょ? だから、それを足せば、七人……」 ……………………。 「あーッ!!」 俺、志勇吾、鮎見の声がハモった。 猿橋が頷く。 「そう、『七』だ!」 そうか、不思議が「七」に固定されてるのって……! 「で、でも、ちょっと待って!? 七不思議は随分前からいわれてる! 七人目は七十六年目になるわ! 数の辻褄が……!?」 猿橋は大げさに首を横に振ってみせる。 「君たちは『契約書』というものを見たことがないのか?」 恥ずかしながら、見たことない。俺たちの微妙な表情を確認すると、猿橋は言った。 「永年契約、というものもあるが、通常は一年ごと、二年ごとの年次更新だ。だが、その更新が、例えば、九十年単位だったら? 最初の一人目から二人目までが十五年、三人目までが三十年。すると、七人目までで九十年となる」 だとすると……。 俺は言った。 「あらかじめ『七人の生け贄を捧げます』って契約したのか」 「おそらく。すると、七十六年目、今から二年前で、いったん契約が切れることになる。そして、それから遡ること一年、つまり今から三年前に、僕の祖父は理事長の座を逐われた。言い換えたら、乾氏が、理事長になった、いや、ならねばならなかった。……ここの実権を握る必要があったんだ。ここのどこかにある『契約書』を更新し、乾コンツェルンを繁栄させるために」 いろいろ繋がってきた。そして、俺は気がついたことを言った。 「じゃあ、その『ピー・タイ・ホー』も、本当は精霊なんかじゃねえかもな」 鮎見が息を呑む。 「ソロモン王が使役していた、七十二の悪魔……! ひょっとして、悪魔十体ごとに一人の生け贄、とか? 冗談じゃないわよ!」 志勇吾が嘆息する。 「勘弁しろよ! そういうのは悪魔祓師(エクソシスト)呼べってーの!」 猿橋がきょとんとなった。 「同じようなものだろう、精霊だろうと悪魔だろうと?」 俺たちは一斉に睨んだ。 こいつは、なんていうか! ちょっとだけ鼻白んだようになった感じで、猿橋は言った。 「ま、まあ、何にせよ、『アーク』を探し出せば、全て解決だ。その契約を破棄すれば、全ての問題は解決するからな」 まあ、そうだけどな。 納得いかない俺たちを無視して、猿橋はシニカルな笑いを浮かべて言った。 「そう言えば、ソロモンの秘法は、聖櫃(せいひつ)……アークだという説もあったな。皮肉なものだ」 何にせよ、俺たちもアーク探しに本腰を入れないとならないようだ。
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