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作品名:FACELESS−生徒会特務執行部 Special Edition 作者:ジン 竜珠

第31回   CASE4・2
 ハートから光が消えた。
 途端に体がだるく重くなる。女の一撃のダメージと合わせて、体が全く動かない。
 うつぶせに倒れ、苦痛に呻いている璃依の傍まで歩み寄ると、女は足の爪先で璃依の脇腹を蹴り上げ、仰向けに転がす。そして、しゃがみ込んで、璃依の顔を覗き込んだ。
「なかなか楽しめたわ。まさか、私なりに全力が出せるとは思わなかった。リベンジ、待ってるわよ?」
 そう言って、璃依の左頬を撫でる。
 その時、何かに気づいたらしい。
「あら? このネックレス。……エメラルド? それとも、イミテーション?」
 先月、FACELESSの顧問、真条愛那が勤めるアクセサリーショップで買った、ネックレスだ。彼女の誕生日は五月にある。五月の誕生石はエメラルド。そういうところから、彼女が勧めてくれたものだ。
 もっとも、本物ではない。エメラルドを模したガラス玉で、シンセティックでさえない。
 しかし、カットやネックレス自体のデザインが璃依の趣味に合っていた。それに諸説入り乱れているが、パワーストーンとしてのエメラルドの宝石言葉は「幸福」。「女子アナになるんだ」という、夢への励みにもなりそうだった。
 女は鼻で嗤う。
「あなた、知ってたかしら? エメラルドって、堕天使の王、魔王ルシファーの石だったのよ? ルシファーは驕り高ぶって、神になろうとして、天使長ミカエルに倒された。その時にエメラルドは砕け、以来、この地上に完全なエメラルドは存在しないといわれているわ。……滑稽ねえ。言ってみれば、エメラルドって、高慢、不完全の象徴。あなた、自ら自分のことを『身の程知らず』って、宣言してるのよ? あなた、高校生のようだけど、夢に溢れてるのよねえ?」
 そして、女は璃依の耳元に口を寄せて囁くように言った。
「この、身の程知らず」
 立ち上がり、高笑いすると、女は去って行った。
 やがて、璃依の意識も遠のいていった。それが苦痛によるものか、緊張が解けたことによるものか、彼女にはわからない。

 朝。
 アパートの一室で目を覚ます。
 あれから、太牙に介抱され、アパートまで連れて帰ってもらった。どうやら太牙は詠見に連絡を取ったらしい。彼女に助けられながら、着替えたことをおぼろげながら覚えている。
 起き上がり、ベッドから這い出す……というより、転げ落ちる。体、特に強烈な一撃を受けた左肩が、痛くてたまらない。鎮痛剤の一つ、湿布の一枚も買っておけば良かったと思いながら、そこを押さえ、のろのろと起き上がって歩き、襖をあけると、そこは台所。そして、流しまで行って、蛇口をひねったところで、ドアがノックされた。
「璃依、俺だ。起きてるか?」
 太牙の声だ。寝巻だが、幼馴染みでもあり、さほど気にすることもない。
 ドアを開けると、太牙が、コンビニの買い物袋を持って立っていた。
「大丈夫か?」
「……うん」
 璃依の返答に、一瞬、太牙が沈痛な表情になる。しかし、無理矢理作ったような笑顔と明るい声で言った。
「これ、そこのコンビニで買ってきたサンドイッチと、缶コーヒーだ。とりあえず、なんか、腹に入れとけ。あと、無理すんな、今日は休め。B組の担任の先生には、俺から言っとくからさ」
 そして、コンビニの袋を上がりかまちに置くと、太牙は出て行こうとする。思わず体が動き、彼に抱きついた。
「お、おい……!?」
 驚いたように、太牙の声が裏返っているが、気にせず、璃依は言った。
「太牙、あたし、思い上がってるの?」
「……は?」
「身の程知らずなのかなあ……?」
「お前、何を言ってるんだ? わけがわから……」
「悔しいよう……」
 太牙が沈黙した。
「あたし、悔しい。悔しい……!」
 涙が溢れてきた。
 太牙は黙って、頭を撫でてくれた。


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