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作品名:FACELESS−生徒会特務執行部 Special Edition 作者:ジン 竜珠

第30回   CASE4・1
 今、目の前にいる女は、このところ市内のニュースで騒がれている通り魔に間違いないだろう。記事には「武術家らしい」とあったが、どうやら空手のようだ。年齢はおそらく二十代後半だろうが、顔の下半分はマスク、頭には額まで覆うバンダナと、人相をはっきりと捉えるのは難しい。
 だが、問題はそこではない。
 璃依が感じる限り、相手の女は何らかの「妖気」のようなものをまとっている。「妖気」のようなもの、としかわからない。少なくとも、人間とは違うような気がしてならないのだ。
「どうした、もう手詰まりか、拳法のお嬢ちゃん?」
 女がくぐもった声で言う。
 璃依は故郷で拳法を学んでいた。流派は太極拳だが、健康目的ではなく、武術を目的としたものだ。ただ、あくまで「憑きもの落とし」の補助として学んでいたものだから、段位などはとっていない。道場での実力は、それなりだったと思う。つまり、まったくの一般人よりはマシな程度。
 今、ブレスレットとアンクレットのハートマークは、アクアマリンの点滅だ。あと三十秒ほどで、ピンク色の点滅になるだろう。
 このアイテムの底上げがあってなお、相手に全く歯が立たない。
『今のあたしの腕力とかは、常人を越えてるはず。そりゃ、確かに技術は劣ってるけど、少なくとも物理的な力では、普通の人以上のはずなのよ!』
 心の中に焦りが生まれる。
 今、いるのは、アパートから学園までの途中にある児童遊園。不思議事件が実体化したというので、太牙とともに向かう途中だった。
 太牙には「先に行ってて」と言ったが、彼にもいてもらった方が良かったかもしれない。
 女が一気に間合いを詰めてくる。それを予期できなかったが、それでも腕でガードし、そのまま、相手の腕をとる。そして、腰のひねりを加えて、相手を地面に叩きつけた……はずだった。
「ウソ!?」
 女がその力に耐え、璃依を背後から羽交い締めにする。その右腕は璃依の右肩をとらえ、左腕は胸の下に回されている。肋骨の下が締め付けられ、息が出来ない。
 その時に、女の力が自分とほぼ同等であることを感じた。このアイテムを発動させているとき、璃依の筋力は通常の二倍程度になっているという。理論上、「火事場の馬鹿力」と呼ばれるほどのパワー……通常の四〜五倍程度まで出せるらしいが、それだと璃依の筋繊維や、瞬発的に発せられる力に腱(けん)が耐えられないという。だから、それをセーブするような「回路」も組み込んであるらしい。
 それと同じ力を行使できるこの女は一体、何者なのか?
 ハートマークがピンクの点滅に変わった。
「あら? どうやら、ピンチになったみたいね? 早く必殺技出さないと、負けるわよ?」
 女がくぐもった声で嗤う。
 言われなくとも、必殺の一撃をお見舞いしたところだが、まったくと言っていいほど動けない。ふりほどこうにも、力が拮抗しているのだ。
 どうにか自由になる脚で、隙を作れないか、と思っていたら、不意に、体が自由になった。相手が羽交い締めを解いたのだ。咄嗟に間合いを取り、振り向きざま、蹴りを……と思ったところで、女の姿がない事に気づいた。もしかして、防犯灯の照明範囲外へと身を隠したか?
 そう思って、辺りを見回したときだった。
 金属音が立て続けにしたかと思うと、風を切る音が上空から降ってきた。
 殺気を感じて上を見ると、女が組んだ両手を構え、璃依めがけて落下してくるところだった。
 そばの防犯灯の支柱を駆け上がり、そこからダイブしてきたのだと気づいたときには、女の拳が璃依の左肩を強く打っていた。


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