翌日、三隅先生に事情を話した。先生は「あのコンサートの主(ぬし)って、『チェケラ(バンドの名前だそうだ)』だったのね」と驚いていたが、俺たちが事情を話したら、協力してくれることになった。そして、その夜、裏門を通って、中に入ったとき。 「……あれ?」 俺が首を傾げたんで、近くにいた璃依が聞いた。 「どしたの、太牙?」 「あ、いや、今、裏庭に、セーラー服着た女の子がいたように思ったんだが」 その方を凝視する。でも、誰もいねえ。裏庭には、清掃用具を入れる倉庫とか、各種器具、プロパン室なんかがある。もしかしたら、その影なんかを見間違えたか? 防犯灯も、一本しかねえし、影の具合によっては、人の形に見えることもあるか。なので。 「すまん、気のせいだったみてえだ」 そう言って、俺たちは音楽室の方へ向かった。
音楽室の下で待機していると、バンドが現れた。三隅先生にも見えてるようだから、間違いない、このバンドは「チェケラ」だ。 三隅先生は、雑音を鳴らしている白いバンドに向かって言った。 「映香(えいか)、バンド、頑張ったよね。確かに、あんた、やっちゃいけないことやった。不倫とか、最低だわ。伊東(いとう)くんも、大村(おおむら)くんも、アンタに気があったし。許せないわよ。ほんと、アンタ、ひどいことしたんだから!」 俺は小声で璃依に言った。 「大丈夫か? 説得っていうより、責めてるぞ?」 璃依は「うーん」と、腕を組んでる。鮎見が、 「とりあえず、なりゆきを見守りましょ?」 って言ったんで、俺も黙ってることにした。 「高沢(たかざわ)ちゃんも、手首を骨折しちゃったし、相当、怨んでたわ。アンタも学校、やめることになった。だから、なのよね?」 そして、三隅先生は微笑んだ。 「楽しかった頃に戻りたい、みんなで楽しくバンド活動してた頃を、懐かしむ。わからなくもないわ。でも、それは……」 俺の心に感慨が生まれる。 楽しかった頃には、もう、戻れない。 先生はそんなことを言いたいんだろう。 酷なようだが、それを幻姿が納得してくれたら。 そうすれば、今回の件は解決させられるかも知れない。
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