衣替えして一週間が過ぎた。 あれから、昏睡に陥るような「現実化」は起きちゃいねえが、どうやら「差し替え」が起こったらしい。 俺たちは、例によって放課後、猿橋に呼びつけられていた。 「新聞部や、我が校生徒が利用する、学内掲示板の書き込みを検討する限り、七不思議の差し替えが起こったようだ」 差し替えっていうのは、もともとあった何かの「不思議」が消えて、新しい「不思議」が入ることだ。FACELESSのファイルを見ると、過去にも、何度か起きている。 「今、こちらで把握している『不思議事件』は、以下の通りだ」 と、猿橋がノートPCの画面をこちらに向ける。
・夜中、グラウンドを駆け回る初代理事長の銅像。 ・夜な夜な繰り広げられる、音楽室でのコンサート。 ・毎日、少しずつ変わっていく、初代校長の肖像画。 ・深夜、武道場で演舞を繰り広げる女子空手部員。 ・今は閉鎖されている旧講堂で、雨の夜に上演される謎の芝居。 ・夕方、体育館の西側の壁に浮かび上がる、ボクシングの試合。 ・体育館の壁を這い回る、黒い影。
「武道場の女子部員」は「逆回転する大時計」を、「体育館の黒い影」は「屋上の合唱部」を、それぞれ潰したあとに発生した「不思議」だ。だが、記録を見ると「武道場の女子部員」は三年前にも出現している。 一度、現れ、消える理由はわかってない。だが、これまでのことからおおよそのことは推測している。 それは……。 「そして、五日ほど前に目撃報告があった。今のところ、目撃したのは三人だが」 そう言って、猿橋が画面をスクロールさせた。そこには、 「裏庭のどこかを指さしながら、不気味に笑う女生徒」とあった。 「三人もいるということは、おそらく実際に現れている現象と思われる。となると、七不思議のうち、一つが消えた、と考えた方がいい」 理由は不明だが、ここの「不思議」は七つに固定されている。 俺たちの推測だ。 この「七不思議現象」は、おそらく在校生または卒業生の「無念の想い」が原因となっている。それがなんで「七つ」なのかはわからねえが、もしそうだとすると、どこかの時点で、ある「無念」が強くなって、あるいはその逆、どれかの「無念」が弱くなるか解消されるかして、入れ替わるんじゃないか。 鮎見が入って、事件の背後がわかるようになったからな、こういう推測が出来るようになった。 ただし、このことはまだ、猿橋には伝えてない。確定事項じゃねえからな。 鮎見が、持ってきたFACELESSの備品であるタブレットをチェックする。何かを見つけたらしい、俺たちに画面を見せた。 「聞き覚えがあるなあ、って思ったら、それ、六年前にも、リストアップされてるわ」 見ると「裏庭に現れる、昔の制服を着た女子生徒。裏庭のどこかを指し示すが、位置は一定していないらしい」とあった。ちなみに「解決済み」のフラグは立ててない。 志勇吾が言った。 「同じモノっぽいな。不気味に笑うっていうのがないが」 璃依が応えるように言う。 「六年前の記録漏れなんじゃない?」 一瞬、そうかとも思ったが、「不気味に笑う」なんていう目立つワード、漏らすとは思えねえな。 「これについては経過を観察する必要がある。それで、だ」 と、猿橋が俺たちを見た。
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