そんなこんなで、アパートに帰ってきたのが、午後九時。ちなみに俺と璃依はヘトヘトになってた。 アパートの前で、澄香ちゃんが志勇吾に聞いた。 「ねえ、志勇吾くんって、○○県××市の出身だよね、去年の入居時の書類、私、確認したし?」 「ああ、そうだけど?」 急に、何を聞き始めたんだ、澄香ちゃんは? 俺は璃依を見るが、こいつにも見当が付かないらしい、首をかしげてる。 「西暦二〇〇四年生まれだよね」 「うん」 「じゃあ……。志勇吾くんが、××市の霊感少年、S・Hくんだよね?」 ……。 「はい?」 志勇吾が首をかしげた。 かまわず、澄香ちゃんは言った。 「去年の十一月、私、今通ってる高校の文化祭に行ったのね? そしたら、三年生の教室で『古本市』をやってたの。そこに、古いオカルト雑誌があって。それに『霊感少年S・Hくん』のことが載ってたのよ!」 志勇吾が地元で、そういう風に呼ばれてたのは聞いたことがあるが、本にも載ってたのか。 「で、私、今年、入学して、さっそく立ち上げたの、オカルト研究会、オカ研!」 ……。 「で、心霊スポット巡りとかしたけど、私含めて、会員、誰も霊感なくてさ。やっぱり、ここは『本職』がいた方がいいよね、ってなったんだ! ……志勇吾くん、S・Hくん、だよね?」 「……。えっと、違うよ」 「え?」 澄香ちゃんがきょとんとなった。 「確かに俺のイニシャルもS・Hになるけど。別人だ。ていうか、隣のクラスにいたよ、そいつ」 「……うそ……」 澄香ちゃんが唖然となってるけど、まあ、こう言うしかない。下手に「自分だ」って名乗って、注目浴びる訳にもいかねえし。 「本当に?」 「うん、本当」 「本当の本当?」 「うん。俺じゃないから!」 しばらくして。 「なあんだ。てっきり、志勇吾くんがS・Hくんだと思ったのに。似顔絵もそっくりだと思ったのになあ。やっぱ、写真じゃないとダメだわ。似顔絵じゃあねえ」 そして、がっくり、とは違う感じで、澄香ちゃんは言った。 「んじゃ、志勇吾くん、お疲れ様っした〜」 手をひらひらさせ、部屋へ戻って行った。 ちょっとして、アパートの囲いを過ぎて、志勇吾が出てきた。そして、俺たちに気づいて言った。 「おう、二人とも、話し合いはすんだか? ……なんで、そんなヘロヘロのボロボロになってるんだ? ていうか、久能木、アイテム、つけてなにやってんだ?」 俺は言った。 「いや、ちょっと、そこの遊園で、璃依と鍛錬をな」 俺が答えると、志勇吾はうなずいた。 「そうか。まあ、実質的な『戦力』は、お前たち、二人だからな。頼りにしてるぜ」 爽やかな笑顔で、志勇吾は去って行った。 「ねえ、太牙」 「なんだ」 「……なんか、ゴメン」 「構わねえよ、俺も『そう』思ってたから」 今回は、俺たちの早とちりだ。まさか、澄香ちゃんの目当てが志勇吾じゃなくて、透視能力だったとは……。
翌日、俺は疲労、璃依は筋肉痛で一日中、寝てた。
(CASE−EX・了)
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