俺は剣を落とし、璃依はインジケーターを光らせる。そんな俺たちの前には、どこかの国の巨匠が作ったような前衛的な絵が刻まれた、でっかいプレート(縦五メートル、横一メートルぐらいある)が立ててあって、その両脇に、踊ってんのかふざけてんのか、わかんない、ジャ○ラみてえな人形がある。頭らしきところにあるのは、三つの目だ。高さ、三メーターぐらい? そして、その周囲を、さっきの念の塊と同じヤツが漂っていた。今回は、俺にも「黒い影」として視えてる。 「璃依、二十秒で片付けるぞ」 「OK!」 お互いのインジケーターが点滅を始める中、俺たちは「影」を倒していった。志勇吾自身は、自分でどうにかできても、澄香ちゃんに悪影響を及ぼす訳にはいかねえからな!
物陰に隠れ、肩で息をしている俺たちの前で、志勇吾と澄香ちゃんが、会話してる。 「ねえ、澄香ちゃん、このプレートの絵、って何?」 「これ? なんか、『アレシボ天文台のメッセージ』とかいうものなんだって」 「……なに、それ?」 「私もさっぱり。十二、三年ぐらい前なんだけど、ここで町おこしでUFO呼ぼう、みたいなものがあって、その時に作られたって」 「ふうん。じゃあ、この両脇にあるジャミ○は?」 「えーっと。確か、ヴォロネジ事件?とかいうもので出てきた、宇宙人だか、宇宙ロボットだか、そんな感じ」 「へえ」 「さっき鉄塔があったよね? あれも、宇宙と交信するためのアンテナだったんだって」 俺は小声で璃依に聞いた。 「そうなのか?」 「ごめん、そこまでは知らない。ただ『心霊スポットがどうの』っていうことぐらいしか」 澄香ちゃんが言った。 「でも、そのイベント、中止になったらしいの」 「中止? なんで?」 璃依の話じゃ、何人か亡くなるような事故があったっていう。 澄香ちゃんが言った。 「イベント実行委員会にいた、青年団だか、有志の会だかいうグループの人たちが、悪乗りして、近くの水田でミステリーサークル作ったんだって。でも、それ、無許可だったから、全員、持ち主の人にしばき倒されて。で、実行委員会から登録抹消されて。当時、『メン・イン・ブラックに殺(け)された』って言われてたらしいわ」 「メン・イン・ブラック?」 「その持ち主さん、黒田さんっていうの。私のおじいちゃんから聞いた話だから、間違いないよ? その人、おじいちゃんのお友達だし」 ……。 「その一件が元で、いろいろケチが付いて、結局、イベントも中止になっちゃって。……でも、私、宇宙人とかには、興味ないからどうでもいいけどね」 と、澄香ちゃんの笑い声が聞こえた。 俺と璃依は両方のこめかみに中指を当てて、唸ってた。多分、俺の顔も璃依と同じ、梅干しを十個ぐらい、口の中に放り込んだような表情になってるんじゃねえか? なんなんだ、ここの心霊スポットは!? 「ね、なんか変なものとか見える、志勇吾くん?」 「え? 別に?」 「そう。……ここでも見えないんだ。……よしっ! じゃあ、次、行こ!」 「次って、澄香ちゃん!」 二人が駆け出した。その方を見て、璃依が難しい顔をした。 「確か、あの方って」 「……勘弁しろよ、また心霊スポットか? なんで、澄香ちゃん、そんなところばっかり?」 「多分、『吊り橋効果』、狙ってるんだと思う」 「なんだ、それ?」 聞いたことない言葉に、俺は璃依に聞いた。 「危機を共有した男女は、恐怖心のドキドキを、ときめきのドキドキと勘違いして、カップルになりやすい、っていう理論。多分、澄香ちゃん、それを利用しようとしてるんだと思う」 「そうか。だが、何にせよ、もし、さっきのような『念の塊』があったら」 「そうだね」 俺と璃依は、また、林経由で走り出した。
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