「あーん、志勇吾くーん、お迎えありがとー!」 泣いてるんだか笑ってるんだかわからない表情で澄香ちゃんが志勇吾に駆け寄る。……さっきまで、俺たちと普通に話、してたがな。変わり身がすげえ。 「澄香ちゃん、なんで、こんなところに来たの?」 志勇吾の問いに、澄香ちゃんは「友達と心霊スポットに来たが、ちょっとしたトラブルがあって、はぐれてしまった。自分はこの辺りはわからない。その友達の携帯のバッテリーが切れているらしく、連絡が取れなくて、どうしようかと思ってた」みたいな話をした。どう考えても無理がある話なんだが、それでも志勇吾は信じたらしい。まあ、こんなところで一人で、怖くて動けなかった、みたいなことも言ってたからな。 二人が歩き始めた。 「ねえ、志勇吾くん、なんか、変な気配とか、感じない?」 「え?」 「それか、変な姿が見える、とか?」 「いや、全然、そんなの、ないけど?」 「……そう」 と、澄香ちゃんは周囲を見渡す。璃依が携帯を手に言った。 「もしかして、澄香ちゃんって、『視える子』なのかな?」 「さあ? そんな話、聞いたことねえけど?」 俺も璃依も「視る力」「知る力」は、志勇吾ほど強くない。それでも、「何かがいる」っていう「影」は視ることができる。漠然とした影っていうことは、弱い、ってこと。強力なヤツ、それこそ、学園生を昏睡に追いやるほど強力なヤツは、俺たちの目でも、はっきりと見ることができるが。 璃依が澄香ちゃんに電話をかける。それを受けた澄香ちゃんは、志勇吾に「今、その友達から電話があって、その子は無事、家に帰ったって」なんて言ってた。「君を置いていくような子とは、友達づきあいをしない方がいい」なんてことを言いながら、志勇吾が二股の道を左に行こうとすると。 「ねえ、志勇吾くん、こっちにしよ?」 澄香ちゃんが、右手の道を指さす。 「え? でも、バス通りへは、こっちの道……」 「いいからいいから!」 と、澄香ちゃんが、右手に志勇吾を引っ張って言った。 「璃依、なにやってんだ、澄香ちゃん?」 心底呆れたような表情で俺を見ると(失礼だな)、璃依は言った。 「バッカねえ、少しでも長く春瀬くんと一緒にいたいから、に決まってるじゃない」 「ふうん、そういうもんかねえ?」 そして、俺たちも後をついて行く。やがて、ちょっと拓けたところに出た。 「志勇吾くん、ここ、有名な心霊スポットなんだよ……?」 と、澄香ちゃんが例の洋館の話をする。そうか、ここがその洋館跡地か。俺たちが聞いた話と細部が違うが(例えば、引っ越す前に大人の怒鳴り声と子どもの泣き声が毎晩聞こえてた、とか、親が留守の時に来たお客さんが子どもを見ると、顔や腕に殴られたような痕(あと)があったとか)、まあ、この手の話にはよくあること。で。 「どうする、太牙?」 と、小声で璃依が聞いてきた。 「うーん。放っといてもいいんじゃねえの? このぐらいの浮遊霊なら、何かをするつもりはないだろうし」 俺たちの目でさえ、白い「何か」がいくつか、ふわふわと辺りを漂っているのが見える。志勇吾も、ゴーグルをつけてないとはいえ、あれだけの透視能力者だ、何らかの「情報体」が浮遊していることは、わかるだろう。 こいつらからは、敵意は感じねえ。 「ねえ、志勇吾くん、何か見える、変なもの?」 「え? ……いや、別に……?」 そう言う志勇吾の目は、あきらかに白い影たちを追っている。 「……そう」 そうつぶやいてから。 「ねえ、志勇吾くん、次、行こ!」 「え? 次? っていうか、バス停は……」 とまどう志勇吾を引きずるようにして、澄香ちゃんはその場を離れた。 「……確か、あっちの方は……」 と、璃依がつぶやいた。 「なんだ? なんか、あるのか?」 「……うん。あそこに、……遠くに鉄塔が見えるでしょ、特徴的な形のヤツ」 「……ああ、あれか。あれ、なんだ?」 「あの辺り、郎末留(ろすえる)っていうんだけど。確か、町おこしのイベント用に立てたシンボルタワーだったかな? でも、作ってる最中に不幸な事故があって、何人か亡くなったって噂があって。で、イベントも中止になったって。放送部でも何度か取り上げたことがあるみたい」 「まさか……」 璃依がうなずいた。 「あそこも心霊スポット。『本物』かどうかは知らないけど」 俺は塔を見る。霊ではないが、禍々しい「何か」が、周囲を漂っているのが感じられた。俺たちも、二人の後を追った。
|
|