20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:FACELESS−生徒会特務執行部 Special Edition 作者:ジン 竜珠

第16回   CASE−EX・1
 俺や璃依が住んでるアパートは、三階建てだ。二階、三階が入居者用で、六部屋があり、一階は大家さん夫婦と、大家さんの長男さん夫婦の住居、あと、倉庫がある。
 もともとは、二階建てで一階には大家さん夫婦の部屋と、入居者用の部屋が五部屋だったんだそうだ。当時は倉庫が別にあったんだそうだけど、今は駐車場を整備した関係で、建物の一階に倉庫が作ってある。
 十一、二年前、大家さんの長男さんが経営してた会社が倒産したんだそうだ。その時、いろいろあって、ここに住むことになり、大家さんがアパートを増築した。
 その長男さん、いわゆるIT関連の小さな会社を経営してたんだそうだけど、今はその時の技術とかノウハウなんかを生かして、次男さんが勤めている会社でシステムエンジニアをしてるそうだ。これは余談。
 その人には娘さんが一人いて、今、市内の公立高校に通う高校一年生。で、実は。
「ねえ、今日は志勇吾くん、いないの?」
「澄香(すみか)ちゃん、いつもうちに、たむろしてる訳じゃねえから、志勇吾は」
 連休がすんで、すぐの金曜日の夜、俺の部屋にやってきたのが、大家さんの長男さんの娘さん、澄香ちゃんだ。この子は、志勇吾に気があるらしい。きっかけ、っていうのは、実はよくわからない。去年、彼女が受験生だった十一月末に、俺と志勇吾と璃依がいるところに、彼女が回覧板……ていっても、このアパートのみの申し送りだが……を持ってきた時のこと(俺の部屋は201だから、いろいろと回すのは、一番目になる)。その時には、もう彼女、志勇吾のことが気になるような素振りを見せてた。……ていうか、そのことを指摘したのは、璃依なんだが。
 その日、志勇吾が帰っていったとき、璃依が言ったんだ。
「澄香ちゃん、春瀬くんのことが好きだね、きっと」
「そうか?」
「うん。なんかね、視線とか見てると、わかるの」
 そして一言。
「これはお手伝いしないとね」
「なんの手伝いかわからんが、ややこしい事態にだけはするなよ?」
 こいつは放送部だ。カップル成立ともなれば、妙な企画を立てかねない。
 そんな経緯から、自然と俺と璃依は志勇吾と澄香ちゃんとの仲に注意してたりしたんだが。
 ……。
 志勇吾は典型的な朴念仁だからなあ。端から見てると澄香ちゃんが志勇吾に気があるのがバレバレなんだが、本人はまったく気がついてない。
 やっぱり、例のゴーグルつけねえと、情報がわかんないか。
「あ、これ」
 と、澄香ちゃんが回覧板を俺に渡す。
「……来週の金属ゴミの回収場所の変更?」
「うん。なんか、この辺のいくつかの町会で、リサイクル業者に売るっていう話が出てたでしょ? あれに、ここの町会も参加することになって、隣町の高野間(たかのま)さん家(ち)に持ってくことになったんだって。だから、金属ゴミはいつもの集積(しゅうせき)場(ば)じゃなくて、ここの近くの児童遊園そばの駐車場に軽トラが来るから、それに積んでくれって」
「ふうん」
 なんて話をしていると、璃依がやってきた。
「こんばんは……、て。澄香ちゃん? どうしたの、こんな時間に?」
「お晩でヤンス! 璃依ちゃんこそ、どうしたの? ……ああ、そうか。男と女が夜に会うっていったら……」
 なんだかニヤリとした澄香ちゃんに俺は言った。
「そんなんじゃないぞ? ていうか、俺と璃依はただの幼馴染みだ」
「……そうなの?」
 と、澄香ちゃんがきょとんとなって、璃依を見る。璃依はなんだか微妙な表情で「ま、まあ」なんて応えた。俺たちは「そういう風」に見られることが多いからな。璃依もうんざりしてるんだろう。この表情、そういう意味だと見た。
「なあんだ。去年、ここに入ってきたとき、てっきり『そういう仲』に見えたんだけどな」
 残念そうにそう言った澄香ちゃんは、用が終わったということで帰って行った。
「ねえ、澄香ちゃん、なんだったの?」
「ああ、これ」と、俺は回覧板を見せる。そして、ついでに言った。
「いつもの如く、『志勇吾はいねがぁ』って、どこぞの鬼みてえなことも言ってた」
「ふうん」
 そうつぶやいてから、璃依が笑みを浮かべた。
「これは、一肌脱がないとねえ……」
「……前も言ったが、ややこしい事態にすんじゃねえぞ? 例えば、後で放送部のなんかの企画に引っ張り出すとか」
「そんなことしないよう」
 と璃依はむくれる。
「どうだかな。……ところで、何の用だ?」
「あ、そうそう。太牙、今日、英語のサブテキスト、あたしから借りてったでしょ? 宿題が出てるんだ」
「おう、そうか」
 と、俺は、璃依から借りてて、返すのを忘れてた英語のサブテキストを、鞄から出す。
 それを受け取ると、璃依は「うしっ」なんて言って部屋を出た。
 ふと、ドアを開けて背中を見ると、璃依のやつ、上り階段じゃなく、下り階段を降りてた。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 1797