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作品名:FACELESS−生徒会特務執行部 Special Edition 作者:ジン 竜珠

第15回   CASE2・7
 二コーラス目の最後、またサビのところに戻ったとき、上空に一つの気配が現れ、ゆっくり降りてきた。見上げると、白いドレスを来た女の子。背中には一対の白い翼がある。その女の子は、きれいな声で「翼をください」を唄っている。そして、その女の子を見て、ここに来てもらった仲島さんが呟いた。
「みねよ……」
 仲島美音世、仲島さんのお嬢さんで、この当時、合唱部三年生だった。
 美音世さんの幻姿は着地し、みんなと声を合わせて唄っている。そして、歌が終わったとき。
「ブラボーッ!」
 一人の男性の声が響いた。続いて、指笛、さらに、拍手。
 振り返って確認するまでもない、今日の為に集まってもらったオーディエンスだ。ていうか、猿橋が生徒会役員使って、連絡を取りまくって来てもらった、当事者本人たち。
 そう、今まさに、幻姿となっている、その元になった人たちだ。
 なんていうか、「自分たちの無念が、七不思議になっちまった」っていうのを知ったときは、複雑な心境だったらしいが、なら、なおさら自分たちの無念と向き合って、一つの「想い」を成仏させてやろうってことになったらしい。さすがに当時の三年生全員、てわけにはいかなかったが、それでもOB・OGあわせて、八人ほど来てくれた。
 歌い終わり、静粛になった一群に、仲島さんが歩み寄った。そして、最前列にいる美音世さんに、このために美術部に急いで作ってもらったトロフィーを手渡す。
「立派だったよ、美音世」
 柔らかい笑顔で仲島さんが言うと、美音世さんの幻姿が微笑んだ。そしてそのトロフィーを受け取った瞬間、合唱部が光の粒になって、空に吸い込まれていった。
 美音世さんの幻姿も光とともに消えていった。消える刹那、「有り難う、お父さん」って言ったの、少なくとも、俺、璃依、志勇吾、鮎見、そして仲島さんには聞こえてたようだ。
 不思議なことに、トロフィーも消えてた。
 彼女が記念に持っていったんだな、きっと。

 志勇吾があの時、新聞部の記事を確認したんだが。
 美音世さんが亡くなった当時、当時のOBとOGが集まって、彼女を偲んで、学園で「翼をください」を唄うことになってたそうだ。だけど、諸々の事情で、集まることさえ出来ず。
 おそらくその無念も、上乗せされていたんだろう。

 校舎を出て、一同が駐車場へと向かう。みんな、不思議な満足感に満ちていた。
「みなさん」
 仲島さんの声に、俺たちは振り返る。
 威儀を正した仲島さんが、俺たちを見渡して、深々と頭を下げながら、言った。
「今日は本当に有り難う。娘は、……私は、本当に果報者です」
 その声は涙声だった。
 仲島さんの奥さん……美音世さんのお母さんは、今、御病気で入院しているんだそうだ。せめて声だけでも、とICレコーダーを持参したそうだが、録音できているかどうかは、わからねえ。
 でも。
 きっと、仲島さんと奥さんには、美音世さんの歌声が聞こえるんじゃねえかな。


(CASE2・了)


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