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作品名:FACELESS−生徒会特務執行部 Special Edition 作者:ジン 竜珠

第111回   ADDITION
 一件落着だ。
 乾は建物を飛び出したところで、そこで見張っていたお巡りさんに捕まったという。俺たちが見た時は、どこか精神のタガがおかしくなってたように思えたんだが、極めて正常で、きちんと取り調べに応じているそうだ。秘書さんの殺害は認めたものの、雉谷造船の社長さん殺しは「事故だった」と言い張っているらしい。その社長さんの死因となったコンクリートブロックのカケラが、別宅の敷地から見つかったそうで、その血痕のつき具合から見ると、乾の言うことも、あながち「言い逃れ」とは言えないらしい。殴打した場合と比較して明らかに血の量が多く、「倒れた拍子に頭をぶつけ、受傷。そこから勢いよく流れ出た血液が付着した」と考えられるそうだ。ただ、海難事故に遭った船は、もともと廃棄処分の予定だったものを急きょ、組み上げたものなんで、あちこちおかしなところがあったらしく、その方面からも、乾の責任が追及されるという。死刑にまではならないだろう、ってことだったけど、破滅は確実だそうだ。
 以上の情報は、笠井さんが真条さんに語ったんだという。
 本当に、刑事として大丈夫か、あの人? 守秘義務とか、ホントに大丈夫?

 俺たちが乾と相対している頃、志勇吾たちは、図書室の、倉庫の頃から増築されたという部分の床にある「床下点検口」から、床下に潜って、「契約書」を収めた金属製の箱を見つけたそうだ。ただ、中を開けて契約書と思しき紙の束を手に取った瞬間、消えてしまったんだそうで「わけがわからない」と志勇吾と鮎見は首を傾げてた。
 やっぱ、あの時の紙束が、契約書だったんだな。ちなみに、契約書の置き場所は、ちょくちょく変更されていた形跡があるらしい。あのあと志勇吾が、「七不思議事件」が本当に解決したか、改めてじっくりとチェックした際に、「裏庭の地面の下」だの、「屋上の給水タンクの下」だの、あちこちから、わずかながら「悪魔」の痕跡が見つかったらしい。ただし、本当にわずかなものなんで、「気のせいかも知れない」とは志勇吾も言ってた。

 学園は一時期、大騒ぎだった。乾が捕まった頃に、意識不明だった生徒たちはみんな意識を取り戻したんだが、「何か有害物質が付近にあるのでは?」ということで、県の「なんとか」っていう機関と保健所が学園を含めた近所を大々的に調査したんだ。結局、何にも出なかったが、その時に「昏睡事件がちょいちょい起こってた」っていうのが外部に漏れて「行きすぎた指導」だの「過剰なストレス」だの「深刻なイジメ」だの、「建物に使われた資材に、禁止された物質があるのでは」だので、マスコミが騒いでる。
 せめて、文化祭までには、この騒ぎ、鎮まって欲しいと思う。

 新しい理事長には、乾とも猿橋とも無縁の人が選ばれた。一時は猿橋の爺さんが返り咲くんじゃねえか、って思ったんだが、猿橋曰く。
「あのご老体の興味は、この機に乾を追い落とすことに移っているから、退屈な学園運営には、食指が動かんさ」
 だった。
 まあ、いいけどな。

 で、理事長さんが替わり、七不思議事件が解決した関係で、いろいろ変わったことがある。
 ぶっちゃけ、俺たちに対する特権が消滅したんだ。
 だが、鮎見は、
「もともと、自力で、あの大学に入るつもりだったわ」
 とクールに言ってるし、志勇吾も、
「必要なところはノートとか、PCに記録を取ってるから、あとは自力で」
だった。
 でも璃依は、
「あーん、あたしの夢が遠のいたぁぁぁ!」
 って喚いてるし、俺も、これからはテスト勉強をしっかりとやらないとならねえ。
 でも。
 それが本来の生活なんだよな。

 九月下旬の土曜日、午後一時。俺と璃依はアパート近所の児童遊園に来ていた。実は志勇吾と鮎見と璃依と、俺の四人で、「七不思議事件解決」の打ち上げをしようってなってたんだが、延期になった。
 この日は志勇吾は紫緒夢さんとのデートが入ったんだそうだ。紫緒夢さんは、志望大学の一つがこの県にあるとかで、その下見に来るついでに、デートすることになった。璃依に言わせれば「どっちが『ついで』なんだろうね」だったが。ちなみに、紫緒夢さんは志勇吾に対し、それとなく「自分が通う(予定の)大学の近くにある大学に進学する」ように、誘導をかけている節があるらしい。
 鮎見は実家の親父さんに電話をした際に、十一月に開かれる美台市アマチュア美術コンクールに出品する予定の作品でアドバイスがあったらしく、そのことで、この木曜日から実家に帰ってる。金曜日を休めば、日曜まで四連休になるしな。あいつも久しぶりに実家に帰って、リフレッシュできるだろう。
 俺は缶コーヒー、璃依はグレープソーダの缶を手に、遊んでる親子連れとか、子どもたちを眺めてた。
 しばらく無言だったが。
 不意に、璃依が言った。
「幼馴染みってね、微妙なのよ?」
「……何言い出したんだ、お前?」
 ほんと、いきなり何を言い出したのか、わからない。
「とても近くにいるけど、だからこそ、一歩を踏み出せない。この関係が壊れたらイヤだから……。だから、自分の想いを、絶対、知られちゃいけない」
 そして、穏やかな笑みで俺を見る。今、ちょっと胸が高鳴った気がした。
「でもね?」
 と、璃依が弾けるような笑顔で言った。
「もう心配ないかなあって!」
「え? 心配ないって、何の? ていうか、お前、さっきから、何の話をしてるんだ?」
 璃依がどこか勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
「あの時ね、あたし、まだ意識があったの。だから、はっきり聞いちゃったんだ!」
「だから、何の話なんだ?」
「『虫ケラの分際で、俺の璃依に手を出してンじゃねえ』。ハッキリクッキリ、言ったよね?」
 と、「俺の」にアクセントを置いて、璃依は言う。じわじわと記憶の底からわき上がるものがあった。
「……夢でも見たんじゃねえの?」
「聞いたモン、この耳で!」
「だから、それは夢……」
 璃依が俺の目をじっと見た。
 俺の息が止まる。
 そして。
「真条さんからもらったんだ、映画のタダ券。今日の午後二時半からなんだけど」
 璃依が手にしたチケットは、今、評判の恋愛映画のものだ。正直、興味はないが。
 俺はベンチから立ち上がり、伸びをして言った。
「二時半まではちょっと時間があるが、近くで、時間を潰せば、あっという間だな」
 その言葉に、璃依が、また弾けるような笑みで「うん!」と頷いた。

 七不思議事件を巡る奇妙な「物語」は終わったんだが。
 俺たちの、輝くような新たな「物語」は、これから始まるようだ。


(FACELESS−生徒会特務執行部・了)


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