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作品名:FACELESS−生徒会特務執行部 Special Edition 作者:ジン 竜珠

第109回   FINAL CASE・18
「大火焔(だいかえん)を現じ、大いなる智慧の剣を執(と)って、貪瞋痴(とんじんち)を害す!! 帰命(きみょう)す! 普遍(ふへん)の諸金剛(しょこんごう)に! 暴悪(ぼうあく)大忿怒(だいふんぬ)尊(そん)よ、破壊せよ!! ナマハ・サマンタ・ヴァジュラーナーム・ハーム!!」
 俺は不動(ふどう)槍印(そういん)という、ある程度のレベルにならないと使っちゃならない、って言われてる印を組んだ。そして。
「オーム・アジャラーダ・スパタヤ・フーム!」
 御真言を唱える。俺の両手が、紅蓮のオーラに包まれる。その途端、俺の生命力が全部持って行かれそうになったが、必死でこらえた。
 璃依を護るんだ!!
 意識を集中すると、オーラが収束し、赤く輝く槍になった。俺はその槍で、吠えながら、乾を薙ぐ。
 カエルが潰れたような悲鳴を上げて、乾が吹っ飛んだ。
 次の瞬間、赤く輝く槍が消え、俺は脱力したが、乾も、起き上がれないようだ。だが、よろよろって感じで、どうにか上半身を起こす。しかし、何かをする、という状態ではないらしく、なんだか、ぼーっとしている。
 少しして、ヤツは自分の左手を見た。そして息を呑む。
「指輪、指輪がない!」
 指輪? ああ、そう言えば、槍で薙いだ時、当たってないのに、なぜか吹っ飛んでいったなあ。多分、槍の霊力の関係だと思うけど。飛んで行った先を見ると。
「……! な、なんだ、あれ……?」
 転がった指輪を拾う、一本の左腕。その腕は壁から生えていた。
 そして、腕の主が、壁から現れる。えらく古めかしい服を着た西洋人の若者だった。
「お前、ヴァレフォル!」
 乾が驚いてる。知り合いか?
『いぬい さん、契約破棄ですな』
「な、なに?」
『魔法円の外へ、指輪を投げ棄てた。立派な契約破棄ですよ』
「ち、違う! 待ってくれ、そんなつもりではないのだ。……事故、そう、事故なんだ!」
『契約書、よく読みましたか? 「理由を問わず」と書いてあるでしょう? 商売人なら、その辺、わかってますよねえ?』
 乾は何だか、オロオロしている。
「だから、事故なんだ! 私自身に契約を破棄する意志は……!」
 西洋人がどこからか、書類の束を出す。
『ええっと。「我がソロモン七十二霊は、契約者に従い、繁栄を約す。報酬として、契約開始時に、七十二霊のうち、十霊が一人分の生命力、これは契約成立の証(あかし)、十五年ごとに十霊が半人分の生命力、これは「いぬい」の繁栄の印、これを頂戴する。合わせて、九十年、七十霊」。これ、そちらが設定したんですけどねえ。もっとも? 我々を欺(あざむ)くつもりで、実は逆になっているんですけれどねえ』
「だから、指輪が外れたのは、私の意志とは無関係……!」
 乾の言葉をまるで無視して西洋人は言う。
『「なお、契約を破棄、あるいは解除、終了した時は、七十二霊の残る二霊に以下の魂を進呈する。一つ、契約開始者・乾誠介、一つ、契約終了者」。つまり、あなたですな、いぬいたけしげ さん』
「だ、だから、話を聞いてくれ!」
『いやあ、おもしろいおもしろい』
 西洋人は、徹底して、乾の話を無視している。
『悪魔と深い関わりを持ったものは、とても面白いことになるようです』
「おもしろい?」
 と、震えながら、乾が反復する。西洋人が頷いた。
『ええ、面白いこと。……人間はそれを「破滅」と呼ぶそうですが』
 それを聞き、乾が引きつりながら、大きく息を引く。なにか、耳ざわりな声を上げ、乾が西洋人に何か言おうと近づいた時。
『それでは、またのご用命を、お待ちしております』
 その言葉とともに、西洋人は恭しくお辞儀をし、壁に吸い込まれていった。
 なんなんだ、あの男?
 まさか……。
 あれが、「悪魔」なのか?
 全然、そんな感じしなかったぞ?
 何だか訳のわからない声を上げ、乾が立ち上がり、走り去った。
 残った俺は。
 なんとか動けるようになったんで、起き上がった。
「そうだ、璃依!」


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