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作品名:FACELESS−生徒会特務執行部 Special Edition 作者:ジン 竜珠

第108回   FINAL CASE・17
 梯子を下りて、数メートルほど歩くと、ドアがある。それを開けると、「むわっ」ていう空気と一緒に、悪臭が漂ってきた。例えるなら、食べ物が腐ったような臭い。
「誰だ!?」
 そんな声がした。ロウソクだけの、ほのかな明かりの部屋。かなり広い。三十畳はありそうだ。ここに、一人の男がいる。服は着崩れ、髪はボサボサ。無精ヒゲを生やし、目の下にクマを作った中年の男。
「理事長?」
 思わず疑問符がついちまったが、あの顔は、乾理事長だ。理事長もこちらを見て言った。
「その制服、我が学園の生徒だなあ。なんだ、その顔、FACELESSじゃないか! いつもご苦労ご苦労!」
 そして、調子が外れた笑い声を立てる。
「ねえ、太牙、いろいろ大丈夫、あの人?」
「俺に聞くな」
 なんか、何日もここにこもってた感じだが、どうも様子がおかしい。もっとひげが伸びててもおかしくねえし、食べ物とかだって、そんなにあったとは思えねえのに、衰弱してるようでもねえ。なんとなく、ここの時間の流れ自体が、狂ってるような感じがするんだが。
 とりあえず。
「理事長。悪魔召喚の儀式、やめてもらえますよね? 今、学園、たいへんなことになってます」
「儀式?」
 と、首を傾げ、理事長は気がついたように言った。
「おお、そうだそうだ! 儀式を行わねば!」
 そして、呪文を唱え始める。
「やめろ!」
 怒鳴り、俺は近づいた。すると。
「邪魔するな。下僕よ、こいつらを排除しろォ!」
 理事長が、何かの指輪をはめた左手で、俺たちの背後の壁を指さす。すると、そこから紫色の狼がにじみ出てきた。紫緒夢さんの話に「演劇部に絡んで、紫色の狼が現れた」ってあったらしいから、こいつがそうかも知れねえ。俺はスマホに剣を落とし、ガントレットにセットする。すると、璃依の悲鳴が聞こえた。そちらを見ると、別の壁から今度は巨大な蜘蛛が現れた。白と赤で構成されているが、禍々しいことこの上ない。
 璃依は虫とか駄目だからな。俺は、蜘蛛の方に向かったが、その前に狼が現れる。
「くそっ、邪魔するなっ!」
 剣を振るうが、あたらねえ。結晶体をはめ込み、狼を狙うが、どういうわけか、技が発動しない。
 変だと思っていたら、理事長が呪文を唱える声が届いてきた。そうか、ここで儀式を繰り返すうちに、変な力場が出来ちまったのか。
 璃依はアイテムのインジケーターを光らせているが、そもそも虫が苦手なせいで、動きが鈍ってる。なんとか俺が蜘蛛の相手を、と思うんだが、狼が邪魔をしやがる!
 その様子を理事長が見ていたらしい。
「そうだ。面白い余興を思いついた。この手の映画にはよくあるだろう、若い娘が魔物に陵辱される場面が」
 その声に従うように、蜘蛛が尻から糸を噴射し、璃依の体を絡めとる。そして、組み付いた。悲鳴を上げ、おそらく恐怖から璃依は失神した。蜘蛛の脚が器用に動き、璃依の服を脱がせていく。
「テメエ……」
 俺の心に怒りがわき起こる。そして俺は吠えていた。
「虫ケラの分際で、俺の璃依に手を出してンじゃねえェェェェェ!!」
 突進し、剣を振るう。狼が邪魔したが、その狼の体を貫き、剣先が蜘蛛の腹に刺さった。俺は気合いとともに、次元壁断裂の力を発動させる。
 悲鳴のような甲高い音をさせて、狼と蜘蛛が消え去った。
 璃依がくずおれる。助け起こそうとしたが、俺の体からも力が抜けた。インジケーターは緑の点滅の途中だったが、指一本動かせねえ。
 理事長の声がした。
「なんだ、終わりか。じゃあ、私が続きをやろう」
 そして、近づき、膝まで降ろされた璃依の下着をさらに降ろし始めた。
「や、め、ろ」
 俺は腕を伸ばしたが、乾はそれを易々とはねのける。
 くそっ!
 転がった俺はのろのろと、ガントレットを外す。こんな時のために修行をしてきたんだ! 限界に到達してもなお、己の力を引き出すために、「その先」へ行くために!! 数日間ではあったが、厳しい行を自身に課してきた。ここでそれができなきゃ、意味がねえ!!
 俺は呼吸を整え、起き上がって全身に力を込めて唱えた。


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