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作品名:FACELESS−生徒会特務執行部 Special Edition 作者:ジン 竜珠

第106回   FINAL CASE・15
 志勇吾はスマホでメールを打った。
『紫緒夢さん、すまない、君の力が借りたい。授業中でたいへんなのはわかるけど、こちらも緊急事態なんだ』
 と、志勇吾は今起きている事態を説明する。大蜘蛛はこちらから動かないのであれば、攻撃してくることはないらしい、動く気配がない。そう言えば、いずれのケースも、こちらから仕掛けたことで、向こうが反応していたように思う。ということは、ある種の自衛システムのようなものだろう。
 しばらくして、返信があった。
『わかった。あと、十五分ほど待ってくれる?』
 十五分か。こちらが動きさえしなければ、大丈夫、という保証はない。
「鮎見」
「ん。わかってる。『意識』も向けるな、でしょ?」
 頷き、膠着(こうちゃく)状態に入った。
 やがて。
 志勇吾のスマホにメールが届いた。紫緒夢は「気分が悪くなって保健室で横になっている」という。
 心の中で紫緒夢に感謝すると、志勇吾は例のシンボルを出し、意識を合わせた。次の瞬間、蜘蛛が躍りかかってくる! よけきれない、と思った時、空から光が降ってきて、剣で蜘蛛を斬り飛ばした。
『大丈夫、志勇吾くん!?』
「ありがとう、紫緒夢さん」
 心からの感謝を声に乗せ、志勇吾は蜘蛛を見る。
 健在だった。
『あいつには、悪魔の力が宿ってる。この人工精霊程度の力じゃ、まるで歯が立たない。逃げるだけの時間しか稼げないけど、いい?』
 それはまずい。ここに契約書があるのは間違いないのだ。太牙たちが乾理事長の身柄を押さえられればいいだろうが、そうできない可能性もある。こちらでできる限りのことはしたい。
 ならば。
「紫緒夢さん、こちらもちょっと魔術については調べた。邪悪なモノを退ける『五芒の追儺』っていうものがあるんだろ? それを使えば……」
 紫緒夢は首を横に振る。
『この精霊体じゃあ、ちょっと時間と気力が必要なの』
「じゃあ、私と意識を合わせてくれる? そうすれば、時間短縮できるわよ」
 詠見がそんなことを言った。
『え? でも、できるの、そんなこと……?』
 詠見がチョーカーのスイッチを入れ、クローバーマークをペリドットに光らせる。
『私も、覚えたわ、「五芒の追儺」の手順は』
 しばらく考え。
『ごめんね、詠見ちゃん! あなたの気力、使わせてもらう!』
 そう言った次の瞬間、乙女座(せいれいたい)の姿と詠見の姿が重なる。蜘蛛が動き始めた時。
 詠見が剣を手に呪文を唱え始めた。
『ヨド・ヘイ・ヴァウ・ヘイ、アドナイ、エーヘイエー、アーグラー……』
 まるで紫緒夢と詠見の声が重なったような不思議な声だった。呪文の詠唱は早口で、蜘蛛の動きを凌駕している。
『……我が四囲(しい)に五芒は燃え、我が背に六芒、輝けり』
 呪文の詠唱が終わると同時に、天から光のカーテンが降り、志勇吾たちを包んだ。
「これで、ヤツを倒せるのか?」
『いえ、今の状態では、滅ぼすのまでは無理。退けるのが手一杯ね』
 その言葉通り、蜘蛛は近づくことが出来ないものの、消え去るまではいっていない。だが、これで契約書探索に集中できそうだ。
『私は、より威力の高い呪文に取り組むわ。詠見ちゃん、もう少し頑張ってね』
 そう言って、紫緒夢は次の呪文にとりかかった。
『王国の威光、我が左足と右手に在れ、栄光と久遠(くおん)、我が肩に宿りて、我に勝利を! 慈悲と正義……』
 その途中だった。


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