「……? ん? ……ンン?」 俺が固まったんで、璃依が不思議そうな顔で、俺を覗き込んだ。 「どうしたの、太牙?」 「え? ああ、いや、なんていうか、妙な違和感が……」 なんだろう、今俺が見ている景色に、ちょっとした違和感がある。 「違和感?」 と、璃依も俺と同じものを見る。 俺の視界に入っているのは、右手に流し台、電磁調理器、正面にワイドなガラス窓、左手に食器棚、リビングとの境になってる壁。 なんだ、何が違和感になってるんだ? 俺は、とりあえず、リビングに行き、同じ方向を眺める。左手にサイドボードとデッカい絵、正面にワイドなガラス窓、右手の壁は全面、プロジェクター用のスクリーン……。 なんだろう、どうにも、違和感がぬぐえない。俺は、リビングとキッチンを行ったり来たりして、そして、一度、外に出たりして、確認した。 「……そうか」 あることに気づいた俺は、もう一度、リビングに飛び込んだ。璃依が驚いて俺を見る。 「どうしたの、太牙!?」 「このスクリーンがある壁、厚すぎるんだ!」 「え?」 「外の窓枠、キッチンとリビングの間は一メートル近く、離れてる! でも、この中から見ると!」 璃依も気づいたらしい。 「ああ、窓枠から壁まで、せいぜい二十センチぐらいしかないね」 キッチンへ行くと、やはり窓枠から壁までは、せいぜい四十センチ。その差、およそ四、五十センチ。ひと一人くらいなら隠れられそうだ。すぐに壁の厚みに意識が向かなかったのは、リビングとキッチンを繋ぐドアが、ちょうど壁の厚みを隠すように開くからだろう。 実際に隠れるかどうかはともかく、そのぐらいの隙間があれば、たとえば地下室への梯子(はしご)とか、隠せそうだ。 地下室! 自分で考えておいて、驚いた。そうか、地下室があるんだ、ここ! 俺は、とりあえず「UPボタン」を押して、スクリーンを上に巻き取った。スクリーンがゆっくりと上昇していく。キッチン側には、食器棚があるから、無理だろう。警察もバカじゃねえからな、いろいろ調べたはずだ。食器棚の下が空白になってたり、埃が積もってなかったり、あるいは何かが這ったようなあとでもあれば、「何かがある」って疑う。 俺は壁を丹念に調べていて。 「……見つけた」 白い壁紙の下部、床から一メートルぐらいが、明るい茶色の化粧板になってるんだが、その中央部分、横の長さが約一メートルぐらいの範囲が外れてスライドするようになってた。接続部分は、うまく切れ込みとかと合わさっていて、普通に見ただけじゃあ、わからない。そして、そこにあったのは。 璃依が言った。 「はしご、だね」 「ああ」 こんな簡単な仕掛けに、警察が気づかないわけがない。それに、ここを調べたということは、当然、ここに地下室があることも知ってるはず。やっぱり、悪魔の力が働いていたんだ。
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