未探索エリアは、裏庭だけだった。いや、この表現は正確ではない。 「何の情報も視えてこないので、意識せず、また絞り込みもしなかった」エリアが、この裏庭だったのだ。だが、もし「ゲーティアの悪魔」の能力なり力なりが影響を及ぼしていたとしたら? 志勇吾はゴーグルをかけ、スイッチを入れる。すると。 「……桃田洋子、娘。戦時中。こんなことで死ぬなど、無念の極み」 そんなメッセージ以外にも、視えるモノがあった。それは。 「セーラー服の女生徒。どこかを指さす」 「私にも視えてるわ」 と、詠見が言った。 「そうか……。七不思議の一つになってたんだな、悪魔の力そのものが」 ゴーグルを外す。 志勇吾と詠見の前方、十五、六メートルほど先に、上は灰色のセーラー服、下は紺色のモンペをはいた、おかっぱ頭の女学生。志勇吾には、この女学生に、生徒たちの生命力が流れているのが視えていた。 そして、赤と白がまだらに混ざった霞が、女学生の周囲に立ちこめてきた。その霞は渦を巻くように蠢いて、ある形になる。それはまるで、白い縁取りのある花のようだった。 「グロキシニア……」 「え? なんだ、それ?」 「花よ。そういう花があるの。静物のモデルにしたことがあるわ。でも、どうして花が関係するのかしら?」 話を聞くと、この間から、「ジャスミンの香り」だの「シャクヤク」だの「デルフィニウムの香り」だの「薔薇の香り」だの、何かしら「花」が関わっている。いったい、どんな意味が……。 「G(グレート)フラワー……。『偉大なる花』……」 「え? 何か言った?」 「いや、なんでもない。……詮索はあとだ」 志勇吾がそう言ったときだった。 花のシルエットが揺らぎ、別のモノになったのだ。それは、赤と白で構成された、体高三メートルはありそうな巨大な蜘蛛(クモ)だった。
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