土曜の夜、俺たちの前で実体化しているのは「深夜、昇降口で何かをまき散らす女生徒」だ。何をまいているのか、わからねえ。とりあえず「なんかのチラシ」ぐらいだな、わかるのは。 「志勇吾」 俺が言うと、志勇吾が首を横に振る。 「黄色い霞が覆ってる。何も見えない」 となると。 あの霞が何かに実体化して、そいつを倒してから正体を、ってことになるんだろうが、それだと、あの影が姿を消す怖れがある。どうしたものかと思ったら、志勇吾がいつかのパウチしたものを凝視した。すると。 『呼んだ、志勇吾くん?』 と、有翼の女性が空から飛来してきた。 「紫緒夢さん、ごめん、ちょっと協力してもらえるかな?」 ゾディアックこと、磨楠紫緒夢さんだ。そうか、彼女、魔術の知識があるってことだから……。 志勇吾から話を聞いた紫緒夢さんが言った。 『わかった。でも、この精霊体じゃあ、ちょっと時間がかかるし、短い時間しか維持できないの。その間、ガード、お願いできるかな?』 俺と璃依が頷き、俺は次元断裂剣2nd−Specを出し、璃依はブレスレットとアンクレットのスイッチを入れた。 紫緒夢さんが、剣を手に何かを唱え始めた。 『大天使ラファエル、東方の悪を封じ給え。大天使ミカエル、南方の悪を封じ給え……』 その時、黄色い霞が辺りに満ち、何かを形作り始めた。同時に。 「なんだ、このニオイ?」 俺の呟きに、璃依が答える。 「薔薇(バラ)だわ、この香り……」 その内、霞が巨大な、黄色い蛇になった。長さは十メートル以上、胴回りは五、六十センチあるだろうか? 璃依が硬直するのがわかる。ああ、こいつ、蛇とか虫とか、ダメだったな。仕方ない。俺は剣を振るう。だが、相手はそれを器用にかわす。この剣が影響を及ぼせる範囲の外へと身をくねらせ、空間ごと斬ることができない。コミックの設定じゃ、2nd−Specは、前のバージョンよりも威力が強い分、有効範囲が狭くて、現時点で「半径三メートル」だ。 これは直接叩くしかないか……。そう思って回り込もうとするが、うまくいかない。ていうか! 「マズい! 璃依、紫緒夢さんたちを!」 蛇が俺を尻尾であしらい、鎌首を紫緒夢さんに向けた。でも、璃依は変わらず動けねえ! このままじゃあ! そう思ったら、志勇吾が気合いもろとも、蛇の頭を蹴り上げる。璃依のような攻撃力はないが、それでも、鍛えられた陸上選手のキックだ、蛇がちょっとだけひるんだ。 『ル・オゥラム、エイメン!!』 呪文が完成したらしい、紫緒夢さんを中心とした広い範囲の円形になんかの力が満ち、黄色い蛇を弾いた。その隙に。 気合いもろとも、俺は剣を振るった。しかし、それもかわされる。俺の剣をかわした蛇は紫緒夢さんに向かうが、彼女を中心として半球形の力場が出来ていて、その中に入っていけない。 その内、奴の動きがパターン化してきた。半球形の外をなぞる関係上、決まったコースしか動けないらしい。 よし! これで奴の動きは封じたも同然。俺は奴の動きを呼んで、先回りし、突っ込んで、次元壁断裂の一撃を振るった。 蛇の首が斬り飛ばされる。ちょうどその時、半球形の力場が消滅した。 マズい、これは紫緒夢さん直撃コースだ! 俺が飛び込むより早く。 璃依の気合いが轟いた。 アクアマリンの輝きを満たした右脚で、璃依が蛇の頭を蹴り、破砕した。 ……目がイッてる。蛇への恐怖心で無意識に技を使ったのか。それはそれでスゲえな。
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