二十二日、土曜の夜、七時。 小金井奈帆(こがねい なほ)は、市内をドライブしていた。そして、市の古港(こみなと)というエリアにあるカフェバー、「ラ・フェルマータ」に来ていた。 客はそれなりに入っているが、ボックス席が一つ空いていた。そこに座り、アイスコーヒーを注文する。 先日、矢南徹明が殺害された件で、刑事が来た。一応、予測の範囲内ではあったが、まさか、こんなに早く自分にたどり着くとは。あの興信所の調査員、職業意識というものがないのだろうか? だが、物証は残しては、いないはず。北海道のあの地回りやその女と接触したときは、ボイスチェンジャーを使い、さらに、プリペイド式の携帯を使った。その電話を入手したときも、わざわざ遠方の県へ行き、金を掴ませて、第三者に購入させた。その第三者は、ネットカフェで、適当に見繕った者だ。風体で判断してはならないが、見た限りの印象では、おそらく警察に通報するようなことはしないだろうし、また、そのような人間を選んだつもりだ。そのプリペイド式携帯から、奈帆に繋がることはない、という自信もある。 北海道の、あの興信所の調査員と会った時は、変装して偽名を使ったから、自分にたどり着くとは思えない。 唯一、あの女の、携帯電話の番号を探ったときのことだけは、奈帆のことが疑われる怖れはあった。ネットを使い、やはり、適当な者を見繕って、女のバッグをひったくらせた。理由は「あの女に恨みがあって、復讐したいから」のようなことを言ったが、信じたかどうかはわからない。だが、それは、あまり関係ない。その際、番号を確認したのだが、その携帯電話は、確実にその女の手に戻らねばならない。だから、バッグを交番の前に置いたのだが。 あの時は、正直言って、動きすぎたと思う。変装、指紋への注意などに抜かりはなかったと思うが、それでも、どこかにミスがあったかも知れない。 下手をすると。 そこから、昨年十一月の、佐溝充政殺しについても、奈帆の関与が疑われるかも知れない。
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