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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第95回   肆の十二
 沢子さんに接触してきたのは、ディザイアだったそうだ。『昨日』の夕方、帝都文明亭で千宝寺さんから、それとなく注意された。この辺りの感覚も、磨かないとならないんだな。
 で、紫雲英ちゃんに金の勾玉、貴織さんに銀の勾玉が降りてきて、退治たそうだけど、その際、なんらかの「事実」がわかったらしい。一足先に貴織さんが、顕空に帰った、ということで、貴織さんが本部に連絡しておくそうだ。
 で、『今日』、僕は帝都文明亭にいた。浅黄さんが来ていて、「あいつは俺が倒したかった」って言ってた。なんか、あったのかな、あのディザイアと?
 紫雲英ちゃんが、オーダーされた料理を、僕、千宝寺さん、浅黄さんの前に運んできたとき、伊佐木がやってきた。
「おう、救世」
 と、笑顔でこっちに来て、前の席に……ちなみに、隣は浅黄さんで、斜向かいが千宝寺さんだ……座った。
 紫雲英ちゃんにカツレツを注文すると、伊佐木は言った。
「いやあ、世の中、物騒だよなあ」
「物騒? なんか、あったのか?」
「俺、木曽中(きそなか)酒造さんでお世話になってるんだけど」
 伊佐木は、木曽中酒造っていうところに、下宿している。
「近所に骨董屋があるんだ。七林(しちばやし)骨董さんっていうんだけど。昨夜(ゆうべ)、そこに泥棒が入ったそうでさ」
「……そうなんだ。たいへんだったな」
「ああ。でも、盗まれたものは、何にもなかったらしい。お金も、骨董品も、手つかずだったってさ。よくわからねえ」
 浅黄さんが、ライスカレーを一口食べてから言った。
「めぼしいものが、なかったんだろ?」
 伊佐木が答える。
「いや、店の中には、明(みん)の時代の、高価な壺もあったそうです。七林さんとこの目玉の一つとして、有名だったから、あれを持っていかないのは解せない、って、ご主人さんが言ってました」
 おかしなこともあるもんだな? でも、これは僕が人から聞いた話だけど、面倒事を避けるために、本当は盗まれたものがあったんだけど、「何も盗まれてない」って、警察には申告する人もいるらしい。
 案外、そういう事情かも知れない。


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