帝都文明亭に心が連れてきた書生の話に、千宝寺千紗は、心当たりがあった。 この間の携帯電話の禍津邪妄、おそらくディザイアに進化したのだろう。そのことは報告したが、心は「それ」と関連づけて考えていないようだった。 だが、一緒にここに来ていた伊達紫雲英、梓川貴織は閃いたらしい。このあたりは、ストーカーの存在を、より身近な脅威と感じるか否か、感性の問題だろうが、やはり心は、護世士としては、未熟と言わざるを得ない。 「もう、誠吉さんたら、心配性なんだから」 と、帝都文明亭で、沢子は笑った。 しばらく前、千紗たちは、心の知り合いとして、細川沢子に会った。かなりの確率で、「一度、知り合った人間」は、時間が巻き戻った際にも、「旧知の仲」ということになるらしい。もちろん、そうでない人間もいたが、今回は「昔からの知り合い」になったようだ。 「まあまあ、いいじゃない。藝術寫眞を撮る人って、あたしも会ってみたいし」 と、貴織は笑顔で言った。 「そうですよね」 と、沢子も笑顔になる。手にした風呂敷包みには、自分で縫った、洋服があるという。これからは、女性も洋装が主流になる、ということで、自分なりにどのような形がいいか、色がいいか、研究しているらしい。さしむきデザイナーといったところだが、さすがにその名前は出せない。千紗の仕入れた知識では、女性の間で洋装が一般化するのは、関東大震災の後らしい。 だから、滅多なことは言わない方がいい。 そう思っていたら。 「いいッスねえ、沢子さん! バーバリーチェックのプリーツスカートとか、あんな感じの服、バンバン作ってください!」 「ばーば、りぃちぇっく? ぷりーつすかーと? なんです、それ?」 「ああ、それは、ヒダの入ったスカートで、今は、結構、膝上のミニが主流ッス……」 紫雲英がそこまで言った瞬間。 辺りに静電気のようなものが走った。 「バカ、伊達!」 慌てて千紗は言ったが、遅かった。 沢子はブツブツ呟きながら、考えている。 明日辺りから、彼女はミニのプリーツスカートを作り始めるかも知れない。
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