「大公妃」「大公后」となっていた。……字、綺麗だな。 「amoureuxや千紗姉様の話では、あの『ムラマサ』とかいう黒い鎧武者、魔修羅大公にも女たちにも仕えているらしい。仮にこの字が当てられるとすると、あの女たちと魔修羅大公は、完全に繋がる。となると」 と、白倉さんは目許をちょっとだけ、厳しくした。 「規模の程はわからないけど、ボクたちは、ある種の『組織』あるいは『グループ』を相手にしていることになる。この推測が正しいとするなら、だけどね」 副頭が、唸った。 「……厄介ですね、それは。もし、大規模なものだとすると、ディザイアが大量に生み出される恐れさえある」 「今も言ったけど、これはボクの推測でしかない。ただ、もしそうだとしても、規模はさほど大きいとは、いえないんじゃないかな?」 その言葉に、少し考えてから、副頭が言った。 「なるほど。もし大規模な組織なら、もっと同時多発的に、ディザイアが生まれているはず、ですか」 頷いて、白倉さんは続ける。 「それに、あのムラマサ、報告を見る限りじゃあ、特定のディザイアを護ることを、使命としているらしい。となると、『ディザイアを護るディザイア』じゃなく、『特定の何かを護るディザイア』と考えた方が、無理がない」 何かを考えているらしい副頭が口を開いた。 「村嶋氏と合崎氏に共通するものは、帝星建設事件です。もしイシュタムが石毛氏ならば、確実なものになる。石毛氏は、帝星建設の社員でしたから。そのあたりを探れば、ムラマサの正体もわかるかも知れません」 千宝寺さんが少し考えてから、副頭に聞いたけど、答えたのは、白倉さんだ。 「もしかしたら、魔修羅大公も、帝星建設関係者、ってことですか?」 「うーん。ボクの中では、それはないんじゃないかなって、思ってる」 と、白倉さんが、ちょっと困惑したような表情になった。 「千紗姉様、魔修羅大公は、『今はまだ、動けない』みたいなことを言ったんだよね?」 「ああ。一言一句、正確じゃないが、そんな感じのことを言っていた」 「もしそうなら、奴らは、今、自分自身では、思うように活動出来ない状態にある。そこで、ムラマサの、何らかの欲念を利用してこちら側に『縁』を結び、特定の人間を使って、ディザイアを生み出している。そんなところじゃないかって、気がするんだ」 そうか。順序としては、ムラマサが最初なんだ。 ……あれ? ちょっと待って? 少し考えて、頭の中を整理し、僕は挙手した。 「帝星建設の事件が起きたのは、去年ですよね? 確か、十一月頃だったと思いますけど?」 副頭が頷いた。 「あれから、八ヶ月以上経ってます。どうして、このタイミングで、ムラマサとか、魔修羅大公とか、動き出したんですか?」 紫雲英ちゃんが、「あ」とか言ってる。 「そッスよね? もし、その企業絡みなら、もっと早く現れてるはず。でも、私たち、そんなのに、会ったことない……」 結城さんが、少し考え、事実を整理しながら言った。 「確か、横領事件の発覚は、去年十一月の下旬。裁判が今年の一月初旬。石毛建設設計の社長が自殺したのが、今年の二月頃、でしたっけ?」 それを受けて、副頭が続けた。 「いろいろとバタバタして、おそらく四月の人事は相当、ガタガタしたものになったはずだし、六月に開かれたであろう、株主総会は、荒れたでしょうね。特に、横領犯の義父に当たる人物は、立場がかなり、微妙なものになったはず。パワーバランスは、変わったはずです」 天夢ちゃんが首を傾げる。 「横領犯の義理のお父さん?」 「ああ、横領犯の石毛晴幸氏は婿養子で、奥さんのお父様は帝星建設の、ある部署の部長さんなんです。週刊誌等の報道を確認しましたが、特に降格も更迭もされなかったようです。でも、あれだけの事件で、なんのお咎めもなかったとは考えにくい。もし関係者の中にムラマサがいたら、今のこのタイミングで、何らかの欲念を抱いたことは、想像に難くない」 「となると」 と、千宝寺さんが言った。 「帝星建設関係者に、ムラマサがいるのは、ほぼ確定ですね?」 「ですが、誰、と特定することは、現段階では不可能です。県内外の支社、子会社の社員、どれだけいることか……」 結局、会議はそれ以上には、進展しなかった。
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