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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第9回   壱の七
 冥空裏界では八月十三日の月曜日だったけど、顕空現界、つまり現実世界では七月二日の日曜日だ。
 午前十一時半。仮眠から覚めた僕は(冥空裏界から帰ってくると、なんか、異常なぐらい疲労している事がある)、宿舎を出て、玄峰にあるアパートへと帰る事にした。
 この宿舎から川ぞいの道へ出て、十分ほど歩くと、市電の駅がある。
 三分ほど歩くと、河川敷へ降りる石段があって、その近くにテントが設営されていた。そして、そこに見知った顔があった。
「桑原さん」
 この街の中心エリアである中央区(ちゅうおうく)にある、大正海(たいせいかい)大学の三回生、桑原礼子(くわはら れいこ)さんだ。紫雲英ちゃんの中華料理屋に友だちと来ていて、その友だちが偶然、僕と同郷の人で。その際、お喋りをして、何となく顔見知りになった。彼女、昔バイトしてた先が、紫雲英ちゃんのところの中華屋さんの近くだし、大学からも、それほど遠くはないんで、今でも時々来るっていう。ボブカットの、美人、っていうよりは可愛いっていう感じの人だ。
 一応、顔見知りだし、無視するのも、あれなんで、声をかけようと思ったんだ。
「あら、あなたは、紫雲英ちゃんのところでバイトしてた、……えっと、救世くん、だったかな。珍しいところで会ったわね」
 桑原さんが、笑顔を返してくれる。
「なんですか、この集まり?」
 なんか、テントの中に五人ほど、そのバックに十五人ぐらいいる。
「炊き出し。私、『レッドリング』ていうボランティア団体に加入してるんだけど、毎週日曜日、ここでホームレスの人のための炊き出しがあるの。私が参加するのは、半月に一度程度、かな」
「へえ」
 と、河川敷の方を見ると、十何人か、石段を登ってくるのが見えた。その中に、左脚を引きずっている人、その人を介助するように手を貸している人がいた。二人とも、四十代後半だろうか? 一応、ワイシャツとスラックス姿だけど、なんていうか、その風体は……。僕がその二人を見ているのに気づいたらしい、桑原さんが言った。
「あの二人。足を引きずっているのが合崎昭雄(あいざき あきお)さん、手を添えているのが、村嶋康造(むらしま こうぞう)さん。……救世くん、『帝星(ていせい)建設事件』って知ってる?」
 どこか沈痛な感じの声に、振り返ると、桑原さんが、何かの痛みをこらえたような表情で僕を見ていた。
 それがちょっと奇異ではあったけど、詮索せず、僕は記憶をさらってみた。
「ええと。七、八ヶ月ぐらい前に、ワイドショーとかで話題になってましたよね。確か、帝星建設っていうゼネコンの大企業があって、そこで殺人事件があったと思ったら、不正経理が発覚して、その関係で、子会社が倒産したんでしたっけ?」
 一ヶ月近く、騒ぎになってたな、確か。殺されたのは、帝星建設の、なんかの部署の係長さんで、未だに犯人は捕まらず。その直後ぐらいに、不正経理が発覚して、それのせいで、子会社が倒産した。そんなにニュースとかを追いかけたわけじゃないから、詳しくは知らないけど。


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