天夢は、波止場から、海面に飛び降りる。だが、沈むことなく、海面に立つことができる。 駆け出しながら、咒符を出す。あの大蛇に有効な神符は、なんだろう? とりあえず、遠距離からでも攻撃可能な符にした方がいいかも知れない。ここは、海だ。ならば。 「二の柄(つか)、水! 謹請、大綿津見(おおわだつみ)の神! 神力招呼火急如律令(しんりきしょうこかきゅうにょりつりょう)!」 符が、緑色に輝く。それを柄頭の、もう一つのスリットに差し込んだ。 剣身が、緑色に輝く。そして、あらかじめ「咒力」発動の咒を唱える。 「水削(みそぎ)!」 剣から、緑色に輝く「水の気」がほとばしる。 オロチまで、五、六百メートル、制動をかけながら、天夢は剣の切っ先を海面に突き刺す。そしてそのまま、剣を振り上げ、あたかも水を引きずり出すように、空に突き立てた。 その動きに合わせるかのように、海中から、白く輝く水のエネルギーが、槍のように天へ伸び、大蛇の首、その一本に突き刺さる。 だが、まるできいていないようだ。首の一本が、大きな口を開け、迫ってきた。その顎(あぎと)は、さながら異界へ通ずるトンネルのようだ。 脚のバネを使い、それをかわす。その頭部はそのまま、海へと突っ込む。まるで、五階建てのビルが、そのまま海面に激突したかのような衝撃波が、天夢を襲う。 抵抗すらできず、そのまま、噴き飛ばされた。 海面で七度、八度、バウンドし、どうにか起き上がると、違う首が向かってくる。咄嗟に剣の「水気(すいき)」を使い、海面をえぐって、海中に潜る。直上を、ミサイルが走ったかのような衝撃が巻き起こる。それに呑み込まれ、海中深く、天夢は送り込まれた。 「水気」の符の呪力で、溺れる、水圧に負ける、ということはないものの、想定以上のエネルギーに、翻弄されるばかりだ。 ならば、と、いっそのこと、自ら深くへ沈み込む。 そして、大蛇の体を見る。海底から巨大なビルの如き、柱があった。これが大蛇の「体」だろう。 天夢は、剣に念を込め、突進した。
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