20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第85回   肆の二
 仮に、真の犯行現場が、この公園だったとする。そして、隙を見るかどうかして、佐溝は犯人に繋がる、なんらかの物証を、このクズかごに捨てた。その際、おそらく財布も一緒に捨ててしまった。犯人はクズかごの近くに佐溝がいることを見て、そこになんらかの物証を隠したと確信、クズかごをあさって、その物証を回収した。
 おそらく、そんなところだろう。そうなると、「あのこと」の不自然さが際立ってくる。
「なぜ、佐溝は、車を海水浴場の駐車場に停めなかったのか」
 佐溝の愛車は、海水浴場の駐車場から、百メートル以上、離れたところで発見されたのだ。十一月であり、駐車場が満車になっていたわけではない。それどころか、誰一人いない。第一発見者のカップルも、人目がないから、ということで、海水浴場に行ったぐらいだ。
 考えてみる。当時は「もしかしたら、人目を憚る相手と会うので、人目につきにくいところに車を置いたのではないか」ということになったのだが。
 もし、犯行現場が海水浴場でなかったとしたら、これも、見方を変えねばならない。
 すると、デスクに置いてあった、あのメモの意味も変わってくる。
 最初、海水浴場付近で佐溝と会った犯人は、何らかの事情で佐溝とともに九柳公園へ行き、そこで、佐溝を殺害した。だが、なんらかの事情で、また、海水浴場へ行って、そこへ佐溝の死体を遺棄した。
 もしそうなら、犯人は、佐溝が、「海水浴場に行く」ことを、誰かに報せている、と考えていた可能性がある。でなければ、ほかの場所に、犯行現場を偽装することも出来たはずなのだ。出血量を誤魔化したいなら、この傍の河に突き落とすことも出来ただろうし、どこか適当な、それこそ人目につかないところに遺棄することも考えたはず。
 なぜ、二度手間ともいえる行為をしたのか?
 あるいは。
「……前提が違っていたのかも知れないな……」
 もともとの約束の場所は九柳公園だった。だが、佐溝が「海水浴場に行く」と、誰かに報せている、と考えた犯人は、海水浴場へ佐溝の御遺体を運んだ。
 なぜ、そう考えるに至ったのか?
 考えてみても、わからない。
 国見は周囲を見渡す。
 公園という性質上、何ヶ所かに防犯カメラが設置してあるが、ここは死角に当たるようだ。それ以前に、もう八ヶ月以上も前。映像は残っていないだろう。さらに、この八ヶ月間、雨も降ったし、風も吹いた。犯行直後に、血痕があったとしても、それが残っているというのは考えにくいし、仮に傍の河から何かが見つかったとしても、事件に結びつくものであるかどうか、判別するのは、不可能事と言わざるを得ない。
「先輩、何、しましょうか?」
 純佳が、公園を見渡しながら言った。
「そうだな。……完全に、初動、誤っちまったからな……」
 事件直後、この場所に気づいていれば、まだ、何かが見つかったかも知れないが。
「地道に聞き込み、だな」
 国見の言葉に、純佳が、「了解」と、敬礼の仕草をした。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 2557