ラーメンをすすっていると、古瀬秋恵(ふるせ あきえ)刑事課強行犯係係長が、刑事課の部屋に入ってきた。 「国見くん、それ、食べてからでいいから、隣の石津(いわづ)市の石津署へ、行ってもらえる?」 「どうかしましたか?」 「さっき、連絡があってね。石津市で、特殊詐欺の出し子をやってた男子大学生をおさえたら、ブランド物の財布を持ってたそうなの。それ、佐溝充政のものだったわ」 「……マジですか?」 佐溝の財布や免許証、スマホなどは、未だに発見されていない。 「その財布、あるブランドが七年前に作った限定ものでね、ダイヤを埋め込んだ純金のプレートがついてて、そのプレートにシリアルナンバーが入ってるの。そのデータが残ってて、佐溝氏のものと判明したわ」 その財布が、なんらかの突破口になるだろうか? だが、あれから八ヶ月も経っている。なんらかの痕跡があるとは、考えにくい。 その話を聞いていたのだろう、ドアのところにいた純佳が聞いた。 「どうやって手に入れたんでしょうね、そんな財布?」 秋恵が答える。 「まだ、詳しいことはわからないけど、青清木(せいせいぼく)の、九柳(くりゅう)公園で拾うか、盗むかしたらしいわ。そんな感じの供述をしているみたい」 「くりゅうこうえん?」 純佳が首を傾げる。それには、国見が答えた。 「『ユーレイ公園』だよ」 「ああ、ユーレイ公園ですか」 上石津市は、近隣のいくつかの町村と合併した新市だ。その中核となるエリアを、「上石津十区」という。まず、市役所のある中央区。以下、東側から時計回りに、亜椎(あしい)区、安立(あんりゅう)区、五宝(ごほう)区、芯岳(しんがく)区、神浜(かみはま)区、西乙部(にしおとべ)区、上田(うえた)区、三駄屋(さんだや)区、中央西(ちゅうおうにし)区だ。 青清木というのは、十区の東端にある安立区、五宝区と接したエリアだ。住宅地で、大きな公園がある。 「なんで、くりゅう公園が、ユーレイ公園なんて、呼ばれてるんですか? 私がこっちに来た時には、ただ『ユーレイ公園』としか聞いてないんですけど?」 秋恵が答える。 「あの公園の東には、大きな河があるんだけど、その河沿いの道に九本の柳の木が植わっているの」 「ああ、それで、九柳公園で、ユーレイですか。柳っていう字、『りゅう』とも、読みますもんね」 「そう、『柳』っていう字は……」 そこまで言って、秋恵の動きが止まる。 国見も、頭の中に閃くものがあった。 「国見くん」 と、秋恵が国見を見る。頷いて、国見は言った。 「考えてみても、いいかも知れませんね」 純佳が国見と秋恵を交互に見た。 「なんですか、二人して?」 それに応えたのは、国見だ。 「お前、佐溝充政殺しの資料、読んでるよな?」 「はい」 「だったら、佐溝氏のダイイングメッセージも、わかってるよな?」 「はい。『やな』でしょ、矢南の?」 「もし、それが『柳』の『やな』だとしたら?」 「……え?」 純佳が首を傾げる。 秋恵が言った。 「突飛な考えかも知れないけど。もしかしたら、犯行現場は九柳公園で、佐溝氏は海水浴場に運ばれたのかも知れない」 佐溝充政の死因は、頭を強く打った事による、頭部外傷及び脳内出血。外出血があるにはあったが、場所が砂浜であったため、砂地に吸い込まれて、正確な出血量はわからない。もしこれが、「流れた血液が砂地に吸い込まれて、さらに波打ち際で洗われて、正確な出血量がわからなくなる」ことを計算したものであったとしたら? 今さらだが。 「念のため、九柳公園、調べた方がいいわね」 秋恵の言葉に、国見は頷いた。 奈帆と矢南の繋がりも気になるが、まずは、こちらの方が先だ。
(参「それぞれの物語」・了)
あとがき
例によって。
・小金井奈帆……中山忍氏。
だから、ごめんってば!
参考。
「参の七」の見通し占及び、辻占について、簡単に、ご説明をば。
・見通し占……大雑把に言うと「子(ね)の日に、東北から来た人は、わがままで不正直」みたいな、占いです。 ・辻占……「夜中(やちゅう)、四つ辻に立ちて、日頃信じる神仏を祈念し、次の歌を三遍読みて通行する人の、三人目の人の話の様子を、自分の事に当てはめ」る占い。その歌にいわく。
「行く人の 四つ辻のうらの 言の葉に うらかたしらせ 辻占の神」
安倍晴明公が、占いに使った道具を四つ辻に埋めたところ、その辻で人の言葉を聞いて占うと、ことごとく的中した、という伝説にちなんだ占いです。
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