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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第80回   参の十八
 千紗が「ヨロイ」をまとったとき、近くの家屋の屋根をぶち破り、咆哮とともに、蒼空めがけて、跳び上がったバカがいる。
「浅黄。怒ってんのはわかるが……」
 詳しくはまだ聞いていないが、というか、千紗自身、自分のことを詳しく話していないから、他人のことは聞けないが、比呂樹は「ストーカー」という存在を憎んでいるらしい。おそらく、あの禍津邪妄から、ストーカーと同じモノを感じたのだろう。
 クラウ・ソラスを撃ち下ろすも、禍津邪妄はそれをかわす。剣圧と、剣が地を撃ったときの衝撃で、近くの家屋が二軒ほど、吹き飛ぶ。
 まだ、八月六日だ。月末まで、まだだいぶある。その間、ここは壊れたままだ。
 これは、いたずらに比呂樹に任せない方がいい。
「カンゴンシンソンリコンダケン。招来、八卦陣」
 自分が、アレを倒そう。その方が、被害を最小限に出来る。
「旋」
 背後の八卦陣が高速回転するのがわかる。乾(ケン)、兌(ダ)、離(リ)、震(シン)、巽(ソン)、坎(カン)、艮(ゴン)、坤(コン)といった八卦は、それぞれ象意(しょうい)を持っている。例えば乾(ケン)ならば、「天」、人物では「父」。他にも、「組織のトップ」といった象意もある。「軍隊」という意味を持つこともある。
 あの禍津邪妄は、携帯電話。つまりは電子機器だ。ならば。
「水、か、電気、か」
 そう判断し、千紗は回転を止める。
「震(シン)の門」
 震の象意は「雷(かみなり)」だ。また「音」「轟音」をも、表す。
 震の持つ象意の中で電気を扱うものは、これまでの経験では「起電機」がもっとも使い勝手が良かった。
 なので、今回も起電機を出現させる。
 適当な伝導体を見繕う。絶縁体でなければ、なんでもいい。千紗は近くに落ちていた、十五センチ程度の縄の切れ端を拾った。
 それを、片膝をついて地面に触れさせ、キーワードを唱える。
「Spark(スパーク)」
 八卦陣から現れた起電機が、放電し、そのエネルギーを千紗に伝える。千紗はそれを手にした縄の切れ端に流し、念の力で、地面に放った。さらに、念で、そのエネルギーを誘導する。向かう先は禍津邪妄。
 禍津邪妄の直下(ちょっか)で、エネルギーは電気へと変わり、禍津邪妄を撃った。
 悲鳴のような音を出し、ガラケー型の禍津邪妄が、地に転がり、のたうつ。
 すかさず、比呂樹がジャンプし、クラウ・ソラスを振りかぶる。まさに、その刃が打ち下ろされようとしたとき。
 何かが飛んできて、空中の比呂樹をふっとばした。
 何者かと見たとき、そこに着地したのは、あの黒い影。鎧兜の人物。ディザイアを護る、ディザイア。
 比呂樹が、地に転がった後、その勢いを利用し、剣を持っていない左腕で、地を打ち、宙で身をひねって、体勢を立て直す。
 クラウ・ソラスを構えながら、比呂樹は言った。
「テメエ……。今度は、その邪妄を護りに来たのか?」
 影が、刀を抜いて言った。
『ついで、だ。私が護るべきは、あの者たちだけ』
 あの者たち?
 あの蜘蛛のディザイア、イシュタムの姿をしていたディザイアのことだろうか?
 実は、月曜日の朝、江崎から、千紗(と、おそらく新)宛てに、メールが来ていた。
 蜘蛛のディザイアは、村嶋康造氏と合崎昭雄氏であり、イシュタムは石毛晴幸氏である可能性が高い、という。
 そして、この三者に共通するのが、昨年起きた「帝星建設事件」。
 江崎は、主観を交えず、あくまでこの事実のみを伝えてきた。これは、今回だけのことではなく、ディザイアの身元が、ある程度判明したときには、千紗と新には、連絡してきた。
 これは、千紗が勝手に思うことだが。
 もしかすると、この武者のディザイアは、帝星建設、あるいは、あのディザイアの縁者ではないか? もしその身元を特定できるなら、このディザイアの出現をおさえることが出来るかも知れない。
 とにかく、今は、先に禍津邪妄を消そう。


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