千宝寺さんが、なんかのキーワードらしいものを唱えた。 「カンゴンシンソンリコンダケン。招来、八卦陣(はっけじん)」 直後、千宝寺さんの背後、頭の高さより、ちょっと上で虹色の光が弾け、高さ三メートルぐらいの、正八角形の、光の線で描かれた「何か」が現れた。それは、奇門遁甲で使う、八卦盤だった。 背中に負った感じの八卦陣が、垂直に上昇し、千宝寺さんの頭上に留まる。 「旋(セン)」 光の八卦陣が、高速で回転する。 「乾(ケン)の門」 そして、それがピタリと停まった。すると、本来、八卦陣の中央にある太極のマークが、隷書(れいしょ)体の「乾」の字になってた。そして、そこから、銃の、いや、多分、機関銃かな、そんな感じの銃身が、現れた。数は、一つ二つ三つ……。 数えられない。少なくとも、二十本以上はあると思う。その銃口は、すべて禍津邪妄を向いていた。 「Fire(ファイア)」 その声に合わせて、銃口から無数の光弾が絶え間なく吐き出され、禍津邪妄を撃つ。禍津邪妄は、その弾丸を呑み込もうとしたけど、それは、最初の一、二秒だけ。すぐに吸収しきれなくなって、膨れあがり、破裂して、消滅した。 秒殺という言葉が、ピッタリだった。
帝都文明亭に到着すると、紫雲英ちゃんしかいなかった。 「ほかの人は?」 「うーん。なんとなくッスけど。千宝寺さんと、浅黄さんが来てるような気がするッス」 やっぱり、すごいな。慣れてくると、誰が来てるか、わかるようになるんだ。僕には、まだ、そんなことはわからない。 僕は、オムライスを注文した。 で、食事を終えたとき。 「……早いな」 今回は、もう、ここを去るような予感がしてきた。多分、あと、一時間ぐらいかな? 今回はこっちに来ている間に、禍津邪妄にもディザイアにも遭遇しなかったし、月末じゃないから、あの魔怪にも遭遇しなかった。 だから、わざわざ本部へ帰る必要まではない。 僕は、適当に街をぶらつくことにした。向こうに帰る頃には、うまくその姿は、他人には認識できないようになっているらしいけど、個人差、っていうか、なんらかのタイミングみたいなものがあって、消えるところが目撃されることがあるらしい。僕の場合、月の途中で、こっちに来て、帰って、またこっちに来て、ってことがあったときに、騒ぎになっていなかったから、大丈夫だったけど。 それで騒ぎになることも、たまに、あるそうだ。 吉祥寺の公園の、あのスポットなら、そういうことはないけど。 ……。 無用な騒ぎとか、起こさないためには、やっぱり、あの公園がいいのかな? ちなみに、顕空へ帰っている間は、僕たちは「冥空に、もともといなかったことになっている」か「どこか余所へ出かけている」「休みを取っている」ことになっているんだそうだ。
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