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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第78回   参の十六
 千宝寺さんが、なんかのキーワードらしいものを唱えた。
「カンゴンシンソンリコンダケン。招来、八卦陣(はっけじん)」
 直後、千宝寺さんの背後、頭の高さより、ちょっと上で虹色の光が弾け、高さ三メートルぐらいの、正八角形の、光の線で描かれた「何か」が現れた。それは、奇門遁甲で使う、八卦盤だった。
 背中に負った感じの八卦陣が、垂直に上昇し、千宝寺さんの頭上に留まる。
「旋(セン)」
 光の八卦陣が、高速で回転する。
「乾(ケン)の門」
 そして、それがピタリと停まった。すると、本来、八卦陣の中央にある太極のマークが、隷書(れいしょ)体の「乾」の字になってた。そして、そこから、銃の、いや、多分、機関銃かな、そんな感じの銃身が、現れた。数は、一つ二つ三つ……。
 数えられない。少なくとも、二十本以上はあると思う。その銃口は、すべて禍津邪妄を向いていた。
「Fire(ファイア)」
 その声に合わせて、銃口から無数の光弾が絶え間なく吐き出され、禍津邪妄を撃つ。禍津邪妄は、その弾丸を呑み込もうとしたけど、それは、最初の一、二秒だけ。すぐに吸収しきれなくなって、膨れあがり、破裂して、消滅した。
 秒殺という言葉が、ピッタリだった。

 帝都文明亭に到着すると、紫雲英ちゃんしかいなかった。
「ほかの人は?」
「うーん。なんとなくッスけど。千宝寺さんと、浅黄さんが来てるような気がするッス」
 やっぱり、すごいな。慣れてくると、誰が来てるか、わかるようになるんだ。僕には、まだ、そんなことはわからない。
 僕は、オムライスを注文した。
 で、食事を終えたとき。
「……早いな」
 今回は、もう、ここを去るような予感がしてきた。多分、あと、一時間ぐらいかな?
 今回はこっちに来ている間に、禍津邪妄にもディザイアにも遭遇しなかったし、月末じゃないから、あの魔怪にも遭遇しなかった。
 だから、わざわざ本部へ帰る必要まではない。
 僕は、適当に街をぶらつくことにした。向こうに帰る頃には、うまくその姿は、他人には認識できないようになっているらしいけど、個人差、っていうか、なんらかのタイミングみたいなものがあって、消えるところが目撃されることがあるらしい。僕の場合、月の途中で、こっちに来て、帰って、またこっちに来て、ってことがあったときに、騒ぎになっていなかったから、大丈夫だったけど。
 それで騒ぎになることも、たまに、あるそうだ。
 吉祥寺の公園の、あのスポットなら、そういうことはないけど。
 ……。
 無用な騒ぎとか、起こさないためには、やっぱり、あの公園がいいのかな?
 ちなみに、顕空へ帰っている間は、僕たちは「冥空に、もともといなかったことになっている」か「どこか余所へ出かけている」「休みを取っている」ことになっているんだそうだ。


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