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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第77回   参の十五
 帝都文明亭は、麻草の近くにある。顕空現界に照らし合わせると、秋葉原辺りになるらしい。ただ、地理なんかは現実とは、かなり違ってしまっているらしいんで、正確に「ここ」と、断言は出来ないけど。
 向かう途中で、ふと、近くに広場があるのに気づいた。
 そういえば、ここで、僕は始めて、禍津邪妄を見たんだよな。

 あれは、僕が二回目に大正十二年界に来たときのこと。その頃は、日付を確認するとか、そういうことをしなかったんで、何月何日か、わからない。多分、昼下がりだったと思う。
 人々の悲鳴が聞こえて、何だろうと見ていたら、黒い塊が角を曲がって、現れたんだ。それは、例えるなら、高さ三、四メートル、横幅が五メートルぐらいある胃袋。片方の端から、いろんなものを吸い込んでいる。人間は吸い込んでいないけど、逃げた人が落とした袋や、鞄、それこそ、道端に転がるゴミまで、吸い込み、呑み込んでいる。
 あれは、倒さないとならない存在だ。
 そうは感じるけど、あんな得体の知れない化け物相手に、何かが出来るとは思えない。それ以前に。
 恐怖が湧いてくる。
 どうしたらいいのか、と思っていたら、誰かが駆けてきた。振り返ると、着物に袴姿の千宝寺さんと、女学生姿の天夢ちゃん、着物姿の紫雲英ちゃんだった。
「救世さん、大丈夫ですか!?」
 天夢ちゃんが、僕に駆け寄る。
「うん、僕は大丈夫! ……ねえ、もしかして、あれが、禍津邪妄?」
「ええ」
「そうか、初めて見る……。あれが、禍津邪妄……」
 その時だった。何かが、天から降りてくる感覚があった。見上げると、金色に輝く勾玉と、銀色に輝く勾玉。二つの勾玉は、それぞれ、千宝寺さん、天夢ちゃんの前に降りる。
 二人はそれを掴み、うなずき合って、言った。
「鎧念招身!」
 その言葉と同時に、虹色に光る粒子が二人を取り巻いたと思ったら、次の瞬間には、二人の姿が変わっていた。
「……天夢ちゃん、それ……」
 やや、あっけにとられた感じの僕の言葉に、少し照れた感じで、天夢ちゃんが言った。
「ここで、闘うための、バトルコスチューム、ヨロイです。変身、と思っていただければ……」
「そう、なの。でも、その格好……」
 彼女の格好は、実に奇妙なものだった。上半身は巫女さんが着るような感じの服だけど、腰はピンク地に焦げ茶色のチェック柄が入ったプリーツスカート。右脚は白いオーバーニーのソックスに、左脚は黒いオーバーニーソックス。黒いショートブーツを履いていた。
「これは、顕空現界で、戦闘に匹敵するか、それに次ぐぐらいの、強力な霊力を使った時の服装に、近いもの、なんだそうです……」
 恥ずかしいのか、天夢ちゃんの声がフェイドアウトしていく。
 千宝寺さんは、ていうと、神職さんが着る狩衣(かりぎぬ)に似た、黒い服を着てる。でも、腰からは、プリーツの入ったマキシ丈のスカートで、茶色いブーツらしいものを履いてる。千宝寺さんは、これに似た服装の時に、強力な霊力を使ったって事。もしかして、千宝寺さんって、神社の人?
 その時、なにかの吠え声がした。
 振り返ると、禍津邪妄が、こちらに気づいて、威嚇するように動いている。
「今回は、楽が出来そう」
 と、天夢ちゃんが言った。
「楽?」
 僕の言葉に答えたのは、笑顔の紫雲英ちゃんだ。
「千宝寺さん、最強の護世士ッスから」
「最強の?」
 天夢ちゃんが頷く。
「ええ。……なんとなく白倉さんが最強っぽいんですけど、あの人がここで護世士に選ばれるの、あたしも紫雲英ちゃんも、見たことがないので」
「最強の、護世士……」


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