小学校時代のことを知っているわけじゃないんで、詳しいところは、私にもわかりません。でも、私が見る限り、天夢は、かなりのブラコンに見えました。 ていうか、最初見たときは、彼氏じゃないかって思ったぐらい、べったりで。天夢の話じゃあ、ご両親が共働きだったこともあって、小さい頃から、お兄さんと一緒にいる時間が長かったそうです。 私には弟がいるんですが、その私から見ると、天夢はお兄さんを、かなり特別視しているように……いいえ、はっきり言って、異性としてみてるんじゃないかって、思ったこともあります。 そんな、ある夜なんですが。 私がそこに居合わせたわけじゃないので、詳しくはわからないんですが、中学三年の春、道を歩いていて、自動車が突っ込んできて、そこにいた天夢を護ろうとして、お兄さんが車にはねられて死んでしまったんだそうです。 目の前でお兄さんに死なれた天夢は、自責の念に囚われてしまって。 それから、しばらく経った、ある夏の日。天夢と一人の男の人が道を歩いていたんです。傍には、お兄さんに似た男の人がいて。 一瞬でわかりました。あの子はその男の人に、お兄さんの影を見ているんだなって。 私、そこに危ないものを感じました。「天夢は、過去に囚われているのよ」。そう言いましたが、彼女は聞き入れてくれませんでした。 そして、あの事件が起こったんです……。
松江さんは、ここで、言葉を止めた。だから、僕は、 「事件?」 と、聞いてみた。 でも、彼女はその先を話す気配がない。 きっと、言いづらいことなんだろう。詮索しない方がいいかも知れない。 そう思って、席を立ったとき。 松江さんが言った。 「もう、わかりますよね? あなた、天夢のお兄さんにそっくりなんです。うり二つっていってもいいぐらい。……あの子は、お兄さんに『償いをしないとならない』って、思い込んでます。そんな想いを、利用するようなことだけは、しないでください!」 その瞳には、真摯な光が灯っていた。
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