センターに着き、談話室に行くと、僕を待っていたのは。 「初めてお目にかかります。私、私立鼎?女学院高等部二年の松江優留(まつえ ゆうる)と申します。天夢……神室さんとは、一年の時、同じクラスで」 「ああ、天夢ちゃんの知り合い? ……あれ? 君、どこかで……」 と、僕は思い出した。先週、天夢ちゃんと道を歩いていて、見かけた娘(こ)だ。あの時、僕を見て、笑顔を凍らせたっけ。 松江さんは、ちょっとだけ躊躇したかのように唇を引き締めたけど、周囲を確認して、僕をまっすぐに見て、言った。 「どこか、ほかの人に話を聞かれないような場所、ありませんか? ちょっと込み入ったお話なので」 その表情には、思い詰めたような、あるいは、何かを迫るような、そんな「何か」があった。
この建物は、一階に所長室・事務室・給湯室・宿直室、エントランスロビー、談話室、資料室。二階に研究発表なんかをする会議室A、十人程度でミーティングをする会議室Bっていうのがある。そして、渡り廊下で繋がった別館には、報告書発行のための会議室とか、本館に収まりきらない資料を収める第二資料室なんかがある(別館には入ったことないから、詳しくは知らないけど)。僕は事務員さんに言って(副頭は出かけてた)、空いていた会議室Bへ、松江さんを連れて行った。 ロビーで僕の分のお茶のペットボトルと、彼女の紅茶のペットボトルとを買って、正方形に並べた机の、ちょうど、向き合う位置に、僕たちは座った。 お互い、最初の一分間は飲み物を口に入れるだけだったけど。 決意したんだろう、頷いて、松江さんは僕を見て言った。 「天夢の心を弄ぶのは、やめてください!」 「……え?」 彼女が何を言ったのか、すぐには理解できない。 「え、と? 松江さん? 何を、言っているのかな……?」 「だから! 知ってるんでしょ、あの子のお兄さんのこと!」 「天夢ちゃんのお兄さん……?」 本当に、何を言ってるんだ、この子? しばらく僕を睨んでた松江さんだけど、小さく息を吐いて言った。 「とにかく、もう、あの子には近づかないで」 「ごめん、松江さん。君が何でそんなに怒っているのか、本当にわからない」 僕の表情に、松江さんは疑わしそうな目を向け、確認するように言った。 「……ウソ、言わないでください?」 「いや、本当だって! 天夢ちゃん……彼女とは、つい最近、知り合ったばかりで、彼女のお兄さんとか、全然、わかんないんだけど!」 しばらく僕を見ていた松江さんだけど。 「本当に、知らないんですか?」 「うん。なんにも」 「……」 ややおいて。 「ごめんなさい、私、早とちりしたみたいで」 と、今度はやたらと恐縮して、頭を下げてきた。 「いや、わかってくれたらいいんだ。……それより、差し支えなかったら、話してもらえないかな、なんで、君がそんなに僕を警戒してるのか?」 話していいのかどうか、逡巡してるんだろう、松江さんはしばらく紅茶のペットボトルを、手すさびにしてたけど。 顔を上げて、僕を見た。 「あなたのこと、多分、天夢は信頼してると思います。だから、お話しします。……私、あの子とは鼎?女学院の中等部からの知り合いなんです。当時、あの子には年の離れたお兄さんがいたんです……」
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