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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第74回   参の十二
 センターに着き、談話室に行くと、僕を待っていたのは。
「初めてお目にかかります。私、私立鼎?女学院高等部二年の松江優留(まつえ ゆうる)と申します。天夢……神室さんとは、一年の時、同じクラスで」
「ああ、天夢ちゃんの知り合い? ……あれ? 君、どこかで……」
 と、僕は思い出した。先週、天夢ちゃんと道を歩いていて、見かけた娘(こ)だ。あの時、僕を見て、笑顔を凍らせたっけ。
 松江さんは、ちょっとだけ躊躇したかのように唇を引き締めたけど、周囲を確認して、僕をまっすぐに見て、言った。
「どこか、ほかの人に話を聞かれないような場所、ありませんか? ちょっと込み入ったお話なので」
 その表情には、思い詰めたような、あるいは、何かを迫るような、そんな「何か」があった。

 この建物は、一階に所長室・事務室・給湯室・宿直室、エントランスロビー、談話室、資料室。二階に研究発表なんかをする会議室A、十人程度でミーティングをする会議室Bっていうのがある。そして、渡り廊下で繋がった別館には、報告書発行のための会議室とか、本館に収まりきらない資料を収める第二資料室なんかがある(別館には入ったことないから、詳しくは知らないけど)。僕は事務員さんに言って(副頭は出かけてた)、空いていた会議室Bへ、松江さんを連れて行った。
 ロビーで僕の分のお茶のペットボトルと、彼女の紅茶のペットボトルとを買って、正方形に並べた机の、ちょうど、向き合う位置に、僕たちは座った。
 お互い、最初の一分間は飲み物を口に入れるだけだったけど。
 決意したんだろう、頷いて、松江さんは僕を見て言った。
「天夢の心を弄ぶのは、やめてください!」
「……え?」
 彼女が何を言ったのか、すぐには理解できない。
「え、と? 松江さん? 何を、言っているのかな……?」
「だから! 知ってるんでしょ、あの子のお兄さんのこと!」
「天夢ちゃんのお兄さん……?」
 本当に、何を言ってるんだ、この子?
 しばらく僕を睨んでた松江さんだけど、小さく息を吐いて言った。
「とにかく、もう、あの子には近づかないで」
「ごめん、松江さん。君が何でそんなに怒っているのか、本当にわからない」
 僕の表情に、松江さんは疑わしそうな目を向け、確認するように言った。
「……ウソ、言わないでください?」
「いや、本当だって! 天夢ちゃん……彼女とは、つい最近、知り合ったばかりで、彼女のお兄さんとか、全然、わかんないんだけど!」
 しばらく僕を見ていた松江さんだけど。
「本当に、知らないんですか?」
「うん。なんにも」
「……」
 ややおいて。
「ごめんなさい、私、早とちりしたみたいで」
 と、今度はやたらと恐縮して、頭を下げてきた。
「いや、わかってくれたらいいんだ。……それより、差し支えなかったら、話してもらえないかな、なんで、君がそんなに僕を警戒してるのか?」
 話していいのかどうか、逡巡してるんだろう、松江さんはしばらく紅茶のペットボトルを、手すさびにしてたけど。
 顔を上げて、僕を見た。
「あなたのこと、多分、天夢は信頼してると思います。だから、お話しします。……私、あの子とは鼎?女学院の中等部からの知り合いなんです。当時、あの子には年の離れたお兄さんがいたんです……」


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