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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第73回   参の十一
 午後三時半頃のこと。僕は、平田古書を早く上がった。
 月曜日は午後五時までなんだけど、僕にお客様なんだという。昼頃、帝都浄魔防衛隊……テイボウの表の顔である「上石津市郷土文化歴史研究センター」に、電話があって、僕に会いたいと言ってきた人がいたそうだ。
 古書店のご主人は面河さんの知り合いで、ある程度、事情を知っているそうだから、早く上がることが出来た。
 バスに乗り、センターへ向かう。この上石津市郷土文化歴史研究センターは、ちょっとややこしいことになっている。
 まず一つ。テイボウの実質的オーナーは御苑生蓮一さんだけど、何らかの理由で、その名前は表立って出せないらしい。四年ぐらい前までは、当時、副頭だった「神楽(かぐら)さん」っていう人の名前を「センター長」として出していたそうで、現在は、今の副頭である、江崎さんの名前になっている。
 ただ、切り替わる際、一時的に空白の期間があったらしい。面河さんの名前を使うということも、何らかの理由があって、出来ないらしく、結局、佐之尾主頭の名前を出したんだそうだ。
 なんで、御苑生さんの名前とか、面河さんの名前が表立って出せないのか、非常にダーティーな想像が生まれてくるんだけど。
 ちなみに、浅黄さんから聞いたけど、佐之尾主頭は、その時に作った名刺を重宝しているそうだ。僕たちがテイボウに入るきっかけは、冥空裏界で佐之尾主頭から、いわばスカウトされたことなんだけど、一応、顕空現界でも、接触しないとならない。その時、ほかの人でもいいけど、やっぱり主頭本人と話をした方がいいだろうということで、出来るだけ主頭が会うか、電話で話をすることにしているそうだ。その方が、相手もすぐに納得できるらしい。主頭が本人に直接、接触できればいいけど、そうじゃない場合、例えば家族なんかにコンタクトを取った場合、主頭の本当の身分を明かすと、相手に驚かれるのは確実だという。
 佐之尾主頭は、県警捜査一課の刑事なんだそうだ。そんな人がいきなりコンタクトを取ってきたら、何事かって驚くよね、普通。僕の場合は、爺ちゃんが帝浄連にいて、家族も事情を知っているから、直(ちょく)にテイボウの名前を出しても問題ないけど、浅黄さんや紫雲英ちゃんは帝浄連ともテイボウとも関係なかったそうだから、「上石津市郷土文化歴史研究センター」の名前で、接触してきたっていう。
 ドラマなんかだと、主頭はその名刺を利用して、相手の懐に潜り込んで捜査する、なんてことがあるけど。
 ……………………。
 ないないないない、さすがに、それはない。……ないよね、多分?
 それから、二つ目。ここは、市の教育委員会やら、近隣の郷土史研究家、学術研究者なんかと、いろいろ提携していて、実際に仕事をして、活動報告やミニコミ誌のようなものを発行しているという。だから、ここにはテイボウとは関係のない人が、たくさん来るし、詰めている。僕たち、テイボウのメンバーは、「アルバイト」ということになっているそうだ。
 作戦本部とか、テイボウ関係の資料なんかは、地下にあるし、そこへの出入り口は、所長室にあって、巧みに偽装されている。定例会議や緊急会議は、センターが稼働していない時間を利用したり、お休みにしているんだそうだ。だから、場合によっては、変な時間にセンターを閉めることもあるそうで、その辻褄合わせだのなんだの、のせいで、僕たち「アルバイト」の「事情」が、かわることもあるらしい。これは、江崎さんにも言われた。「もしかしたら、君のご家族に、『ご危篤』になっていただくこともあるかも知れません」って。
 締め切りに追われる、漫画家みたいだと思ったな、あの時は。


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