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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第72回   参の十
 十七日、月曜日の朝。
 僕は朝食を終え、とりあえず流しに食器を置いて、お茶を飲んでいた。
 十五日・土曜日、みんな、時間は違えど、本部に帰ってきた。みんなが休憩している間に、副頭が高谷さんに連絡をして、緊急会議が開かれたのが、午後一時。
 高谷さんの占断では、前回と全く同じ結果が出たという。こんなことは、彼女がテイボウに入って……いや、生まれて初めてのことらしい。
 また、バビロンの大淫婦が八岐大蛇に、ケルベロスがオルトロスになったことについては、「ケルベロスの首が一つ、大淫婦に移動したんじゃないか?」っていう推測が出たけど、結論は出ず。人の名前が変わってしまった件に至っては、「さっぱりわからない」だった。
 テイボウの先輩であるみんなにわからないことが、僕にわかるわけもなく、僕はただ、話を聞くだけだったけど。
「……そろそろ八時半か……」
 いろいろ考え事とかしてたら、八時半になってた。
 今週から、僕のバイト先は、月曜日から金曜日まで、平田古書店になった。ただ、時間は、日によって違うけど。
 今日、月曜日は、午前九時半からだ。開店は十時だけど、準備とかあるし。で、僕が住んでるところからだと、バスで伊風(いふう)まで十分、そこから市電で十二、三分。でも、僕が住んでるアパートからバス停まで、五分かかるし、平田古書最寄り駅から平田古書までは、歩いて十分ぐらいかかる。中央区のすぐ北には、山があって、市電や主要道は、その山を回り込むように走ってる。平田古書って、どっちかっていうと、都市部じゃなくて、山に近い、奥まったところにあるんだよな。
 そろそろ、出かける準備をした方がいい。市電は十分に一度出てるけど、バスは二十分に一度なんだ。

 天夢が通う私立鼎?女学院高等部は、昔は「良妻賢母の育成」が理念だったそうだが、今は「国際舞台で活躍する人材の育成」にも力を入れている。その関係で、二年生になると、外国語は英語のほか、選択制だがドイツ・中国・ロシアといった国の言葉も、必修ではないが、カリキュラムとして存在する。また、これも選択制ではあるが、商業科も設けられ、貿易等の国際力学も学ぶ。
 月曜日の昼休み、天気もいいことだし、クラスメイトと中庭で弁当を食べようと教室を出たとき。
「天夢、ちょっといい?」
 一年の時、同じクラスだった松江優留(まつえ ゆうる)だ。
「どしたの、ゆーるちゃん?」
 天夢の言葉に、優留は、ちら、と天夢と一緒にいるクラスメイトを見る。彼女がいては話しづらい、そういうことだろう。
 クラスメイトには、先に行っていてもらうよう告げると、天夢は、優留とともに、講堂裏まで行った。
「ねえ、天夢。この間、一緒に歩いてた男の人」
 この間、一緒に歩いてた男の人。先週水曜日に、救世心と一緒に歩いていたときのことだろう。あのあと、少し尋ねられたが、人目もあり、優留は深く聞いてくることが出来なかった。優留からのメールでも、「バイト先の知り合い」と、返事をしておいたが、やはり、納得がいかないのだろうか。
「だから、メールでも言ったけど、バイト先の知り合いだから」
「郷土研究センターの人?」
「うん」
「でも、『そっくり』だったよね?」
「……」
 その言葉には、何も返せない。
 優留が、天夢の肩を掴む。
「天夢、あんた、またバカなこと……」
「大丈夫だよ、ゆーるちゃん。もう、あんなことには、ならないから……」
「……ホント?」
 優留の目は、気遣うようでもいぶかるようでもあったが、天夢のことを心配してくれているのだけは、わかった。
 だから。
「……大丈夫だから」
 その一言だけ、言った。


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