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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第7回   壱の五
 僕たちが冥空裏界に行くときは、深夜頃だ。理由はわからないけど、予感のようなものがある。そして、「その時」がくると、体が粒子になったような感覚があって、気がつくと、来ている。戻るときも同じだ。予感めいたものがあり、体が粒子になるような感覚とともに、元の世界……冥空裏界に行く前にいた場所……に帰って来ている。時間経過は、冥空裏界で過ごした時間に関係なく、最長でも、おおよそ三刻(約六時間)程度だ。
 でも、三十年ぐらい前に、あるテクニックが確立されて、戻るときに特定の作法に従うと、テイボウの本部に作った、一室に戻ってくることができるようになったそうだ。だから、極力、その作法を行って、テイボウの本部に戻る事にしている。
 戻ると、冥空裏界に行く前に着ていた服装なんかに戻る。僕は、白い無地のティーシャツに、青いジーンズだった。千宝寺さんはピンクのサマーニットに、黒いジーンズ。そして……。
「見ないでください!!」
 甲高く、ちょっとうわずった声の天夢ちゃんが、振り返りかけた僕の頬を平手で張った。
 あとで聞いたけど、「予感」があったとき、これまでの経験から、かなりの時間があるだろうと思って、シャワーを浴び、身体を拭いて、服を着ようとしたところで、冥空裏界に行ってしまったんだそうだ。この辺りの時間感覚の把握は、なかなか難しいらしい。

 作戦本部室には、江崎友直(えざき ともなお)副頭(サブ)だけがいた。時刻は午前四時三十分。行く前とこっちに戻る前とで、一時的に時間の感覚が狂ったり、意識を失ったりすることがあるらしいんで、単純な換算は出来ないけど、僕があっちに行っていた時間は、大体四時間半だ。
 天夢ちゃんが、本部に常備している服に着替えて、本部室に入り、江崎副頭に報告する。副頭は、四十代後半って感じの人。優しい感じのする人で、実際に優しいと思う。
 千宝寺さんの総括報告を聞き、副頭がちょっと厳しい表情で言った。
「まだまだ新人の救世くんが、護世士に選ばれてしまった。これは、まさに『世界の選択』でしょうから、我々の理解の及ぶところではありません。ですが……」
 言いかけ、言葉を呑み込む。何を言おうとしたのか、大体の見当はつく。それをあえて言葉にしなかったことに、僕は申し訳なさを感じ、頭を下げた。
 それを確認したわけではないだろうけど、そのあとで、副頭は言った。
「先ほど、占法士(せんぽうし)の高谷(たかや)さんに連絡(メール)しておきました。どのような影響が出てくるか、占断してもらいます」
 高谷さんっていうのは、会った事はないけど、天夢ちゃんよりちょっと年上の女の子で、東洋系占術のエキスパートなんだそうだ。冥空裏界で時間が巻き戻ったとき、それが、どういう影響を持つか、占断するのが仕事だという。
「時間が時間ですから、神室くんは、僕が送っていきます。千宝寺くん、救世くん、ご苦労様でした」
 その言葉に、僕たちは一礼し、本部を出た。


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