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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第61回   弐の三十一
 僕の奥深くから、「氣」がわき上がる。それは噴火口を目指すマグマのようだ。その「氣」を、全身に巡らせ、僕は駆け出し、ジャンプした。自分でも驚くほど跳んだ僕は、はるか上空で身をひねった。そして、落下速度に自分の「氣」を乗せ、ディザイアを目指す。
 落下の目標点、ディザイアの本体、空に向けて伸びているその紐を掴むと、僕はその手を支点にして、体を振り子のように振った。
 そして、そのまま脚から着地すると、僕は咆哮とともに、その紐を引っ張った。ディザイアが振られ、近くの家に激突する。爆発のような音とともに、家が崩壊する。でも、僕はさらに紐を引いた。家の残骸から引きずり出されたディザイアは、されるがままに宙を舞い、地に叩きつけられる。
 僕はさらに紐を引っ張り、ディザイアを空へ放る。でも、紐から手は離さない。そして、叫んだ。
「貴織さん、この紐を斬って!!」
 間髪入れないタイミングで女神が飛び、剣でディザイアの紐を切った。
 直後、地の底から響くような絶叫とともに、ディザイアが、崩れる。まるで風に吹き散らされる砂のように。
 でも、それとともに、ディザイアだったモノから、黒いガスが溢れ、空へと吸い込まれていった。
 なにか、まずいことになったような気がしてならない。
 すると、空間に振動が起こった。
「まさか、大空震!?」
 僕が言うと、天夢ちゃんが言った。
「いえ、それとは違います!!」
 貴織さんや浅黄さんたちも頷いている。
 じゃあ、なんだろう、これは?
 すると、強烈な「何か」が迫ってきた。
 例えるなら、毛穴一つ一つに、冷たくて熱くて、痺れて、そして吐き気を催す針を、差し込まれるような感じ。
 その気配が来る方を見る。
 はるか先、街の灯がかすかに見えるところから、何かが現れる。ゆらり、と、揺らめきながら動いたその黒いシルエットは、天空に向けて広がる、巨大な八匹の蛇の鎌首。まるで……。
「八岐大蛇(ヤマタノオロチ)……」
 同じことを思っていたらしい天夢ちゃんが、呟いた。
 その時、背中……背後からも同じような気配が立ち上った。
 咄嗟に振り向いた僕たちが見たものは、はるか先の大地から立ち上がる、双頭の黒い獣。それをみて、貴織さんが呟くように言った。
「オルトロス……」
 白倉さんが、僕たちのところに来た。苦々しそうな表情で。
「逃げられたよ。一体、何者なんだい、あの武者と、二人の女は?」
 もちろん、誰にもわかるはずなどなく。
 そして。
 二匹の巨獣は、何をするでもなく、静かに消えていった……。


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