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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第59回   弐の二十九
 その時、僕の前に、勾玉が降りてきた。色は金色。そして、銀の勾玉は。
 貴織さんだった。
 僕たちはうなずき合って、キーワードを口にした。
「鎧念招身!」
 虹の粒子が、僕の「ヨロイ」を形作る。
 ふと見ると、貴織さんの「ヨロイ」は。
 アラブの女性が着けるような、顔とか口元を覆う紫色の布(確か、ニカーブっていったっけ)に白いビキニ、紅いマント、腰には白い前垂れ、右脚にだけ膝上の茶色いブーツ。左脚は、足首に金色のアンクレットが三つ、で裸足。ついでに、おへそが見えてる。
 僕の視線に気づいた貴織さんが言った。
「あたし、これに似たカッコで、占いしてるから。でも、『似た格好』であって、決して同じ格好じゃないから!」
「ああ、それはわかります。僕も、これに似た格好で修行してましたし」
 なんか、「ヨロイ」のデザインは、いろいろと変更が加わるけど、それは本人の「同意」を得ているわけじゃないらしい。貴織さんは、なんとなくその格好を不本意に思っているらしいのがわかる。
「じゃあ、サポートは任せて!」
 そう言って、貴織さんが呪文を唱えた。
「Hom、C、E(ホーミー、カー、アイ)、MAGISIAN!」
 何言ってるか、わからないけど、なんとなく「我とともに在れ」って言ってるように思えた。虹色の粒子が集まって、貴織さんの右手で、五、六十センチぐらいの棒になる。先端には、銀色のバラの花が一輪、ついていた。
 僕の視線に気づいた貴織さんが言った。
「ワンド、ていうのよ。本当は、先についてるのは蓮の花なんだけど、なぜかバラになっちゃうの。……さあ、アイツを!」
 貴織さんに頷くと、僕はダッシュした。あっという間に間合いを詰め、ディザイアの腹部に拳を撃ち込む。でも、手応えがない。ていうか、まるで綿の塊を殴ったようで、実体がないみたいだ。
 不審に思ったとき、ヤツの左手から紐が現れ、僕の首に絡まった。
 苦しい。
 それをふりほどこうとしたとき、ヤツは、そのまま、腕を振り回した。それにつられて、僕も、振り回される。首を絞められないようにするのが精一杯で、抵抗できない。
 その時。
「Balt、Napta、Tliob(バー・レイ・テイ、ナー・ペイ・ター、テイ・リー・オー・ベイ)、JUSTICE!」
 貴織さんの声がしたかと思うと、何かが飛んでくる気配があって、紐が切られて、僕は自由になった。なんとか空中で身をひねって、着地すると、剣を構えた「正義の女神」が、そこにいた。
 女神が、ディザイアに斬りかかる。ディザイアは、それをかわしたり、左手から出した紐で防いでいる。僕も、その間隙を突いて拳を出したり、蹴り込むけど、ヤツの体は妙に軽くて、ダメージを与えてる感じがまったくない。ディザイアの攻撃……左手から撃ち出される紐は、女神が斬ってくれるから、その攻撃を気にせず、タイミングを見ながら僕は攻撃できる。
 たまに、近くの家の屋根に上がって、そこからヤツの頭にキックを食らわせるけど、やっぱり、布団を蹴ってるような感じしかしない。
 着地し、僕はヤツを見上げる。ディザイアだから人間の常識は通用しないけど、頭にキックを食らって平然としてるのは、正直、脅威だ。今の僕には、格闘技しかない。どうすれば……!
 その時、何か違和感のようなものを覚えた。その違和感の正体を突き止めようと、精神のアンテナを研ぎ澄ませたとき、千宝寺さんが駆け寄ってきて、僕に言った。
「ヤツは攻撃に左手しか使っていない。おそらく、やつの『身体』は見せかけだ。私には、やつの本当の『意識』は、首に絡まっている紐にあるように感じられる」
 そうか、僕の違和感はそれだ。三メートルの体躯、右腕がありながらも、左手しか使えない。それは、あの身体が本当の身体じゃないから。理由はわからないけど、あの身体は完全に制御下にないらしい。
 ひょっとしたら、あのディザイアのもとになった人、何らかの理由で、日常的に、「体の自由」とか、「行動の自由」がないのかも知れない。
 そうとなれば。


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