その呟きに、僕の隣に来てた天夢ちゃんが言った。 「いしゅたむ? なんですか、それ?」 「マヤで信仰されてた神様だけど、首吊りの神様なんだ」 天夢ちゃんだけでなく、その話が聞こえていたらしい貴織さん、浅黄さんが、ギョッとなる。 僕は、簡単に説明した。 「理由はわからないけど、マヤでは首を吊って死んだ人間は、イシュタムっていう女神に連れられて、楽園へ行けると考えられていたらしいんだ」 千宝寺さんがちょっと考えて、「それで、か」って呟いてた。僕もなんとなく、ディザイアがこの姿をしてる理由が、わかったような気がした。 「それにしても、大正十二年界って、なんでもありなんですね。ディザイアの姿形とか、マヤ神話に由来する、なんて」 僕が、そういうと、浅黄さんと貴織さんが、なんか微妙な表情になった。そして、浅黄さんが言った。 「帝浄連時代の話なんだが。当時のメンバーが、うっかり口を滑らせてしまったらしい」 「口を滑らせた?」 「ああ。『日本もマヤ・アステカも、太陽神を最高神として崇めてるところが、似てる』みたいなこと」 「へえ……」 「その時に、『変質』が起こったらしくてな。おまけにそのメンバー、世界各地の神話とか妖精とか、妖怪に詳しくて、『同じ存在が、国により時代によって、呼び名がかわっているだけ』みたいなことを言ったらしい。滅多にあることじゃないんだが、その影響で、禍津邪妄や、ディザイアの姿形が、いろんな国の妖精とか、妖怪とかの姿をとるようになったらしい」 ……うわあ、ピンポイントな表現っていうか、考え方っていうか。 僕は恐る恐る言ってみた。 「そのメンバーって、救世晃佑(くぜ こうゆう)とかって、いったりしませんか?」 「ん? ああ、確かそんな……。……あ」 何かに気づいたように、浅黄さん、貴織さん、天夢ちゃんが僕を見る。 僕は。 「申し訳ありません」 頭を下げるしかなかった。
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