異変、って言った方がいいと思う。 確かに二十七日の午後九時のはずだったんだ。 でも、あの、空気が粘っこくなって、溶ける感覚があって。まさかと思って居間に行くと、新聞の日付は八月三十一日。電灯がつきっぱなしで、誰もいない。 この間は二十八日で、今日は二十七日。偶然そうなったのかも知れないけど。 まさか、どんどん間隔、っていうか大震災までの期間が短くなっていってるんじゃあ……! 鞍橋材木店を飛び出し、家々や建物の明かり、そして、中天で輝く満月のせいで、異常に明るい街を走る。 人の気配がまったくない夜の街を、目当てがあるわけじゃないけど、なんとなく「イヤな空気」が漂ってくる方向へ走る。すると。 「救世!」 背後から、声がした。その方を見ると声の主は、建物の屋根を、ジャンプ台にしながら、こっちに向かってくる千宝寺さんだった。すごいな、「ヨロイ」をまとっていなくても、あんなことが出来るんだ、あの人。 僕の傍に着地する。 「千宝寺さん、なんか、急に三十一日に……!」 頷くと、千宝寺さんは言った。 「詮索は後だ、まずは、『新巻珈琲』へ行くぞ! そこにディザイアの氣を縫い付けてある!」 「新巻珈琲。場所は?」 「雷門(らいもん)付近だ!」 「らいもん?」 「かみなりもん、だ!」
向かう途中で、天夢ちゃん、貴織さん、紫雲英ちゃん、浅黄さんとも合流した。みんな、口々に「なんで二十七日の夜が、三十一日の夜に直結したのか」って言ってるけど、答えが出ることはなく。 そして、雷門に近づいたとき、そこに、制服姿の白倉さんがいた。 彼女の近くに行くと、白倉さんが、厳しい表情で千宝寺さんを見た。 「千紗姉様、これは、『どういうこと』ですか?」 彼女が何を聞いたのかわかるらしく、頷いて、千宝寺さんは答えた。 「少し前からなんだが、二十八日の夜になると、いきなり三十一日の夜に繋がるようになった。今回は二十七日だ。今のところ、理由はわからない」 「そうですか。そんなことになっているんですか……」 彼女がそう言ったとき、爆音が轟いて、何かが空に跳び上がって、浮かんだ。満月を背負うその姿は、、人の形をしてるけど。 僕たちの前方、十メートルぐらいのところに着地したその姿は、身長は多分、三メートルぐらい。でも、首に紐が絡まってて、その紐は、まっすぐ空へ伸び、十メートルぐらい行ったところでUターンするように降り、その先はそいつの右手にある。まるで。 自分で、自分の首に紐をかけ、首吊り自殺しているみたいだ。 その顔は、遠目だけど、腐乱しているのがわかる。 その姿に、僕はある存在を思い出した。 「まるで、イシュタムみたいだ……」
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