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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第56回   弐の二十六
 最初に答えたのは、千宝寺さんだ。
「白倉新、あいつは、ちょっと『規格外れ』でな」
 浅黄さんが言った。
「現在のアタッキングメンバーの、最古参なんだ。ここにいる中では、千紗が四年で、古株なんだが」
 千宝寺さんが言った。
「あいつは、私が入る前から、すでにいた」
「え? 四年よりも前、って」
 と、簡単に計算してみた。
「まさか小学生の頃から、いるんですか!?」
 千宝寺さんが頷く。
「あいつの家は『白倉神道』っていう、その世界では有名な、古神道の秘儀を伝える家でな。物心ついた頃には、すでにかなり厳しい修行をしていたらしい。つまり、テイボウの中ではサラブレッドといえる」
「そうなんですか……」
 驚いている僕に、貴織さんが言った。
「あの子、デタラメな力持っててね。例えば、あたしたちは自分の意志で、冥空裏界へ来ることは出来ないけど、彼女は、自らの意志で来ることが出来るし、ほかの任意のメンバーを、こちら側に呼ぶことも出来る。今回、ここに全員揃ったのは、彼女が呼んだからなの」
 そのあとを、紫雲英ちゃんが続ける。
「私、『昨日』、こっちに来たんですけど、その時に新(シン)ちゃん先輩が来て、『明日は臨時休業にして欲しい。昼頃、みんなを集めたい』って。で、何かやったらしくて、『今日』は、臨時休業に……」
 なんか、すごいんだな。
「もっとも」
 と、浅黄さんが言う。
「あんまり『デタラメ』な力使うと、何らかの反動、アイツはペナルティーって呼んでるが、そういうのがあるんで、滅多には使えないらしいがな。……どんなペナルティーかは、知らんが」
 千宝寺さんは、椅子の背もたれに体重をかけるように、背をもたせ、腕と脚を組んだ。
「小さい頃から、連休や、夏休みなんかの長期休暇は、山に篭もりっぱなしということも、珍しくなかったそうでな、そんな生活の中での唯一の楽しみは、DVD鑑賞だったそうだ。特に宝塚に、はまっていたらしい」
「宝塚、ですか。……そうそう、調べましたよ、『小夜福子』さんについて! 男役のスターだったんですね。……そうか、それで彼女、『福子小夜』っていう、もう一つの名前を持って、ああいうキャラに……」
 天夢ちゃんが、「いや、それが」と言った。ちょっと困惑したような表情だ。
「キャラじゃないんです……」
「え? どういう意味?」
 千宝寺さんが言った。
「特に男役に魅了されたあいつは、女性が女性に恋をするのが、普通のことだと信じ込んでしまった。それが、修行によって増強された精神力によって、強固な信念になってしまった」
「強固な信念……」
 そのあとを、浅黄さんが言った。
「アイツ、男を好きになる女の気持ちが、理解できないって言ってたな」
「理解できない……」
 そして、貴織さんが言った。
「小学校の三年生ぐらいの頃に、いわゆる『恋愛』についてわかったらしいんだけど、それでも、あの子にとっては、女同士の恋愛がスタンダード、標準仕様なの」
「女同士が標準仕様……」
 紫雲英ちゃんが困ったような笑顔で言った。
「新ちゃん先輩、モノホンでガチの百合ッ娘ッスよ」
「モノホンの百合……」
 そして、天夢ちゃんが言った。
「あたしだけじゃないですけど。……キス、されたこと、あります。……ディープのやつ……」
 その言葉に、千宝寺さん、貴織さん、紫雲英ちゃんがガックリ気味に頷く。
 僕は。
「……なんなんですか、そりゃあ?」
 そう言うしかなかった。


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