最初に答えたのは、千宝寺さんだ。 「白倉新、あいつは、ちょっと『規格外れ』でな」 浅黄さんが言った。 「現在のアタッキングメンバーの、最古参なんだ。ここにいる中では、千紗が四年で、古株なんだが」 千宝寺さんが言った。 「あいつは、私が入る前から、すでにいた」 「え? 四年よりも前、って」 と、簡単に計算してみた。 「まさか小学生の頃から、いるんですか!?」 千宝寺さんが頷く。 「あいつの家は『白倉神道』っていう、その世界では有名な、古神道の秘儀を伝える家でな。物心ついた頃には、すでにかなり厳しい修行をしていたらしい。つまり、テイボウの中ではサラブレッドといえる」 「そうなんですか……」 驚いている僕に、貴織さんが言った。 「あの子、デタラメな力持っててね。例えば、あたしたちは自分の意志で、冥空裏界へ来ることは出来ないけど、彼女は、自らの意志で来ることが出来るし、ほかの任意のメンバーを、こちら側に呼ぶことも出来る。今回、ここに全員揃ったのは、彼女が呼んだからなの」 そのあとを、紫雲英ちゃんが続ける。 「私、『昨日』、こっちに来たんですけど、その時に新(シン)ちゃん先輩が来て、『明日は臨時休業にして欲しい。昼頃、みんなを集めたい』って。で、何かやったらしくて、『今日』は、臨時休業に……」 なんか、すごいんだな。 「もっとも」 と、浅黄さんが言う。 「あんまり『デタラメ』な力使うと、何らかの反動、アイツはペナルティーって呼んでるが、そういうのがあるんで、滅多には使えないらしいがな。……どんなペナルティーかは、知らんが」 千宝寺さんは、椅子の背もたれに体重をかけるように、背をもたせ、腕と脚を組んだ。 「小さい頃から、連休や、夏休みなんかの長期休暇は、山に篭もりっぱなしということも、珍しくなかったそうでな、そんな生活の中での唯一の楽しみは、DVD鑑賞だったそうだ。特に宝塚に、はまっていたらしい」 「宝塚、ですか。……そうそう、調べましたよ、『小夜福子』さんについて! 男役のスターだったんですね。……そうか、それで彼女、『福子小夜』っていう、もう一つの名前を持って、ああいうキャラに……」 天夢ちゃんが、「いや、それが」と言った。ちょっと困惑したような表情だ。 「キャラじゃないんです……」 「え? どういう意味?」 千宝寺さんが言った。 「特に男役に魅了されたあいつは、女性が女性に恋をするのが、普通のことだと信じ込んでしまった。それが、修行によって増強された精神力によって、強固な信念になってしまった」 「強固な信念……」 そのあとを、浅黄さんが言った。 「アイツ、男を好きになる女の気持ちが、理解できないって言ってたな」 「理解できない……」 そして、貴織さんが言った。 「小学校の三年生ぐらいの頃に、いわゆる『恋愛』についてわかったらしいんだけど、それでも、あの子にとっては、女同士の恋愛がスタンダード、標準仕様なの」 「女同士が標準仕様……」 紫雲英ちゃんが困ったような笑顔で言った。 「新ちゃん先輩、モノホンでガチの百合ッ娘ッスよ」 「モノホンの百合……」 そして、天夢ちゃんが言った。 「あたしだけじゃないですけど。……キス、されたこと、あります。……ディープのやつ……」 その言葉に、千宝寺さん、貴織さん、紫雲英ちゃんがガックリ気味に頷く。 僕は。 「……なんなんですか、そりゃあ?」 そう言うしかなかった。
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