「ええーッ!?」 ちょっと待って、ここ、大正十二年界!! 多分、高校二年生なんだろうけど、天夢ちゃんや紫雲英ちゃんは、着物だったり、袴だったり!! 僕が混乱していると、女の子が言った。 「やあ、諸君! 久しぶりだね。二週間ぶりかな?」 そして、クルリと回る。 「え、と……?」 困惑の余り、僕はとりあえず、近くにいた天夢ちゃんを見る。 僕の視線に気づいた天夢ちゃんは、困ったような笑顔を浮かべ、立ちつくしている(ように見えると思う)僕を見上げて、ただ力なく頷くだけ。 入ってきた女の子が僕を見て、笑顔を浮かべ、言った。 「やあ、キミが、新しい護世士の、救世心くんだね? ボクが白倉新(はくら あらた)だ。以後、よろしくお見知りおきを!」 そう言って、芝居がかった調子で僕にお辞儀する。 「え? 君が、白倉さん? ……こちらこそ、よろしく」 そう言って、僕も頭を下げる。 白倉さんは、笑顔で言った。 「本来なら、固い握手を、と、いくところだけど、申し訳ない、ボクは殿方と、手を握り合わせるような趣味は、持ち合わせていないんだ」 「はあ、そうですか……」 よくわからない、ていうか、彼女のまとってる空気についていけない。 次に白倉さんは、天夢ちゃんを見た。 「やあ、愛しのamoureux(アムール)。再会できたこの日、この瞬間の歓びを、ボクは永遠にこの胸に刻むだろう!」 「あ、ありがとうございます、会うたびに、そんなことを言っていただいて……」 苦笑いで、天夢ちゃんは応える。 次に、白倉さんは、僕の隣で、同じく立ちつくしている(ように見える)貴織さんに向いた。 「貴織さん。いつもながら、その麗しい佇まい(たたずまい)、あなたこそ、迷える世人(よひと)に、天の命板(めいばん)に記されし運命を告げる、デルフォイの巫女!」 芝居がかった身振り手振りで、そう言うと、白倉さんはつけ加えた。 「ついては、是非、ボクに、あなたとの運命を、月光の元の『しとね』にて、告げて欲しい」 「……う、うん。いつも言ってるけど、永遠に来ないかな、そんな夜は……」 困ったような笑顔で、貴織さんは言ったけど、それを聞いているのかいないのか、白倉さんは、今度は、天夢ちゃんの隣に座っている紫雲英ちゃんに言った。 「おお、御饌(みけ)を捧げる、愛らしき斎宮(さいぐう)よ! 願わくは、朝と夜、キミの手になる饌(せん)をいただく栄誉を、このボクに!」 「……ハハハ、うち、外泊禁止ッスよ、いつも言ってるけど……」 そして、白倉さんは、端に座る浅黄さんに言った。 「比呂樹くん、よもや、と思うけど、ボクの仔猫ちゃんや女神(ミューズ)たちに、手を出したりしてないだろうね?」 変わらず芝居がかってるけど、さっきまでと違って、ちょっと厳しめに感じる。 浅黄さんは、溜息をついて言った。 「お前、毎日、俺にメールしてたじゃねーか、この二週間、『千紗たちに手を出すな』って。こう見えても、俺、カノジョがいるんだぜ? そんなことしねーよ」 「男というのは、基本的にオオカミなのさ。こまめに釘を刺さないとね」 そう言って、今度は千宝寺さんを見た。 「千紗姉様。今日も、あなたは美しく素晴らしい。その気高い御姿は、まさに至美の体現。あなたの前では、千の宝石は、その輝きを失い、己がただの石ころに過ぎないことを知って、恥じ入るでしょう」 そして、片膝をつき、千宝寺さんの右手をとって、その甲に口づけた。 「あ、ありがとう……」 一応、お礼の言葉みたいだけど、その表情は明らかに困惑してる。 「千紗姉様、いつの日か必ず、ボクは貴女(あなた)の腕の中で、貴女はボクの腕の中で、永遠(とわ)なる楽園の夢を見るでしょう」 「そ、そうだな。現実は、いろいろ辛いからな。せめて、夢ぐらい……。でも、それは、一人でも……」 「何を言うのです!」 と、白倉さんは立ち上がる。 「二人なればこそ、楽園は築けるのです! さあ、今宵こそ、二人でエデンの再興を!」 そして、ポーズをつける。 直後。 「本来なら、ゆっくりと時間を過ごしたいところだけど、公演の打ち合わせがあるから、ここで。明日の公演、是非に!」 そして、去って行った。 その直後、正午の大砲が轟いた。 その残響が消えた頃、僕はみんなを見て言った。 「……なに、今の?」
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