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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第55回   弐の二十五
「ええーッ!?」
 ちょっと待って、ここ、大正十二年界!!
 多分、高校二年生なんだろうけど、天夢ちゃんや紫雲英ちゃんは、着物だったり、袴だったり!!
 僕が混乱していると、女の子が言った。
「やあ、諸君! 久しぶりだね。二週間ぶりかな?」
 そして、クルリと回る。
「え、と……?」
 困惑の余り、僕はとりあえず、近くにいた天夢ちゃんを見る。
 僕の視線に気づいた天夢ちゃんは、困ったような笑顔を浮かべ、立ちつくしている(ように見えると思う)僕を見上げて、ただ力なく頷くだけ。
 入ってきた女の子が僕を見て、笑顔を浮かべ、言った。
「やあ、キミが、新しい護世士の、救世心くんだね? ボクが白倉新(はくら あらた)だ。以後、よろしくお見知りおきを!」
 そう言って、芝居がかった調子で僕にお辞儀する。
「え? 君が、白倉さん? ……こちらこそ、よろしく」
 そう言って、僕も頭を下げる。
 白倉さんは、笑顔で言った。
「本来なら、固い握手を、と、いくところだけど、申し訳ない、ボクは殿方と、手を握り合わせるような趣味は、持ち合わせていないんだ」
「はあ、そうですか……」
 よくわからない、ていうか、彼女のまとってる空気についていけない。
 次に白倉さんは、天夢ちゃんを見た。
「やあ、愛しのamoureux(アムール)。再会できたこの日、この瞬間の歓びを、ボクは永遠にこの胸に刻むだろう!」
「あ、ありがとうございます、会うたびに、そんなことを言っていただいて……」
 苦笑いで、天夢ちゃんは応える。
 次に、白倉さんは、僕の隣で、同じく立ちつくしている(ように見える)貴織さんに向いた。
「貴織さん。いつもながら、その麗しい佇まい(たたずまい)、あなたこそ、迷える世人(よひと)に、天の命板(めいばん)に記されし運命を告げる、デルフォイの巫女!」
 芝居がかった身振り手振りで、そう言うと、白倉さんはつけ加えた。
「ついては、是非、ボクに、あなたとの運命を、月光の元の『しとね』にて、告げて欲しい」
「……う、うん。いつも言ってるけど、永遠に来ないかな、そんな夜は……」
 困ったような笑顔で、貴織さんは言ったけど、それを聞いているのかいないのか、白倉さんは、今度は、天夢ちゃんの隣に座っている紫雲英ちゃんに言った。
「おお、御饌(みけ)を捧げる、愛らしき斎宮(さいぐう)よ! 願わくは、朝と夜、キミの手になる饌(せん)をいただく栄誉を、このボクに!」
「……ハハハ、うち、外泊禁止ッスよ、いつも言ってるけど……」
 そして、白倉さんは、端に座る浅黄さんに言った。
「比呂樹くん、よもや、と思うけど、ボクの仔猫ちゃんや女神(ミューズ)たちに、手を出したりしてないだろうね?」
 変わらず芝居がかってるけど、さっきまでと違って、ちょっと厳しめに感じる。
 浅黄さんは、溜息をついて言った。
「お前、毎日、俺にメールしてたじゃねーか、この二週間、『千紗たちに手を出すな』って。こう見えても、俺、カノジョがいるんだぜ? そんなことしねーよ」
「男というのは、基本的にオオカミなのさ。こまめに釘を刺さないとね」
 そう言って、今度は千宝寺さんを見た。
「千紗姉様。今日も、あなたは美しく素晴らしい。その気高い御姿は、まさに至美の体現。あなたの前では、千の宝石は、その輝きを失い、己がただの石ころに過ぎないことを知って、恥じ入るでしょう」
 そして、片膝をつき、千宝寺さんの右手をとって、その甲に口づけた。
「あ、ありがとう……」
 一応、お礼の言葉みたいだけど、その表情は明らかに困惑してる。
「千紗姉様、いつの日か必ず、ボクは貴女(あなた)の腕の中で、貴女はボクの腕の中で、永遠(とわ)なる楽園の夢を見るでしょう」
「そ、そうだな。現実は、いろいろ辛いからな。せめて、夢ぐらい……。でも、それは、一人でも……」
「何を言うのです!」
 と、白倉さんは立ち上がる。
「二人なればこそ、楽園は築けるのです! さあ、今宵こそ、二人でエデンの再興を!」
 そして、ポーズをつける。
 直後。
「本来なら、ゆっくりと時間を過ごしたいところだけど、公演の打ち合わせがあるから、ここで。明日の公演、是非に!」
 そして、去って行った。
 その直後、正午の大砲が轟いた。
 その残響が消えた頃、僕はみんなを見て言った。
「……なに、今の?」


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