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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第50回   弐の二十
 七月十四日・金曜日、午前七時。
 江崎は、千宝寺千紗、浅黄比呂樹に先んじて顕空に帰って来た心から送られてきたメールをチェックしていた。メールが送信されてきた時刻は午前四時七分。その後、千紗からもメールが送られて来ており、その時刻は午前五時二十二分。時間差は二時間十五分ほどだが、冥空では一日経過したらしい。その間に、ディザイアに遭遇したそうだ。
 咒符が反応し、ディザイアと確認できた。「勾玉」が降臨しなかったため、倒すことが出来ず。痕跡を消して、大正十二年界から逃走される怖れがあったが、心の話で「細川沢子」という人物が、ディザイアである「ケイシー」なる観相見に対して、ある種の「執着」を持っていることを思い出し、彼女に接触。幸いにして、彼女は「トレーサー」となったため、「ケイシー」を固定したという。
 江崎は、たいてい、この本部で寝泊まりしている。以前は妻がいたが、今は気楽な独り身、アパートより、ここの方が、よほど居住性が高い。いっそのこと、本格的にここに住もうかとさえ、考えている。
 シャワールームで心身を目覚めさせ、改めてメールを確認する。
 ふと、ケイシーの名前を組み替えてみる。「KASY」や「CASY」では、文字数が少ないので「KEISIE」「KEISII」などで、試してみるが、やはり圧倒的に文字数が少なく、人の名前を作りにくい。やはり、これは名前の一部と解釈するほかない。
 そもそも、大正十二年界には、日本中から人間の意識や邪念が訪れる。名前を知ることに、ほとんど意味はない。それでも、今回のような事案の場合、そのもとを、説得するなどして考え方を変えさせることが出来れば、この先で起こるかも知れない悲劇を防げるかも知れない。
 いつも思うことだ。大正十二年界でディザイアを倒すことは、所詮、その場しのぎでしかない、と。
 それでも、しないよりは、いいのだが。

 午前十一時半だった。携帯電話にメールが来た。テイボウのメンバー、結城亜紋からだ。
 結城亜紋は、もとは、大病院に勤める医師だった。今は、開業医として市内で活動しているが、御苑生(みそのお)衣祭司(いさいし)の、何らかの助力で、ある程度のエリアに限られるが、ディザイア発生の直前で、意識不明で病院に担ぎ込まれた人間を把握できる。もしディザイアだと確定できて、可能な範囲であれば、その人物に物理的に接触するか、あるいは「霊的」に接触して、同じようなディザイアを生み出さないようにすることにしている。だが、これも結局は根本的解決にはならない。二年半前、結城がメンバーに迎えられたとき、佐之尾主頭と相談して、こういうことをするようになった。
 文面は簡潔だった。
『七月十三日午前零時以降に搬送されて、十四日午前六時の時点でなお意識不明の者のリストを送ります』
 ディザイアの存在が冥空裏界に固定されている以上、本体は意識不明である可能性が高い。まれにそうでないこともあるらしいが、それは、相当に霊術を修めた者だという。
 しばらくして本部のPCにリストデータ添付のメールが送られてきた。日本各地の病院の名前があり、そこに、意識不明者の氏名・性別・生年月日といったパーソナルデータが記されている。今回は件数が少なく、全部で十八人だった。この中に対象者がいれば、氏名・住所・生年月日などから、うまくいけば霊的にでも接触できて、今後、妙なディザイアを生み出すのを、防ぐことができるのだが。
 そう思いながら、リストを眺め……。
「ん? これは……」
 ふと、気になる名前があった。
 調べてみてもいいかも知れない。


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