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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第48回   弐の十八
 それには、浅黄さんが答えてくれた。
「俺は、『二日前』にこっちに来たんだが、その間に、六件、首吊り自殺の話を聞いた。そのうちの一人、死にきれなくてな」
 死にきれなかったその人は、綱をかけた梁(はり)が傷んでて、身体の重みで梁が折れ、落下。その物音で家人が駆けつけ、事なきを得たという。そして。
「その人の話では、観相見に出会って、『望みを叶える』と言われたそうだ。そして、その時から、死ぬことしか、考えられなくなった。さらには、死が希望にさえ思えた」
「……観相見?」
 沢子さんもそんなこと言ってたな。
 千宝寺さんが、眉根を険しくして言った。
「おそらく、その観相見は欲念体(ディザイア)だな」
 ディザイア。邪念の怪人か。
「でも、偶然じゃないんですか?」
 僕の言葉に、浅黄さんが言った。
「この大正十二年界は、魔災の種を潰すための、いわば『造られた世界』だ。そんなところで、同じ事態が立て続けに起こるということは考えられない。あるとすれば、魔災の種の萌芽、それによる連続的な干渉行動」
「だが、だとすると、どうにも解せん」
 と、千宝寺さんが鼻を鳴らす。
「解せない、って、何が、ですか?」
「救世、お前にはいつだったか、ちょっとだけ話したと思うが。現実世界で何かが起きるときには、まず霊界で発生して、幽界へ映り、それが現実で、何らかの形になる。我々がやっているのは、それを利用して、幽界の一部である冥空裏界、その中の大正十二年界で魔災の種を潰して、顕空現界……現実での災害を防ぐことだ。それを逆から見れば、大正十二年界で何か事を起こせば、それが現実世界で何らかの形でフィードバックされる、ということでもある」
 そのあとを、浅黄さんが言った。
「ディザイアっていうのは、まさに『そういう』存在だ。こっちで自分に都合のいい『何か』をやらかして、現実での自分にフィードバックさせる。この間、詐欺師のディザイアが現れたが、あれなんかも、こっちで詐欺で大金を手に入れることができれば、現実でも、それに類する行為で大金を手に入れることができる、そういうことなんだ」
 僕はちょっと考えてみた。それじゃあ、今回のは……!
「誰かを殺す、ってことですか!?」
 殺人のディザイア。冗談じゃない!
 でも、千宝寺さんは首を横に振る。
「それなら、ストレートに『殺人者』のディザイアになればいい。だが、やっていることは自殺教唆だ、目的がわからない。……確かに、誰かを死に追いやっても平気な者、あるいはそれに喜びを覚える、そんな歪(いびつ)な輩(やから)がいることを、否定しない。だが、少なくとも、二件の被害者は死を希望と捉えている」
「つまり、狂信者が、ディザイアのもと、ってことですか?」
 思わず僕が口にすると、苦い表情で、千宝寺さんが頷く。
「考えられなくは、ないんだが、その可能性はちょっと……。……だが、もし、そうなら、現実世界でもそれに類した、事件が起きる怖れがある。そいつが大規模な組織を率いていたら、とんでもないことになる!」
 これは、なんとしてもディザイアを潰さないとならない!
 そう思っていたら、浅黄さんの注文したライスカレーと、千宝寺さんが注文したという、チキンカツレツが運ばれてきた。
「そういえばな」
 と、浅黄さんが言った。
「その観相見、ケイシー?とかいうらしい」
「ケイシー? 外国人ですか?」
「いや、どう見ても日本人だったそうだ」
「じゃあ、ニックネームみたいなものですか?」
 僕の言葉に、千宝寺さんが腕を組む。
「微妙なところだな。我々はともかく、他の者は、こちらへ来るときには、名前に変化が及ぶ場合が多い。その変化は、元の名前がベースになるから、ニックネームのような、ある種、本来の名前からかけ離れてしまう可能性のある名前は、出てこないはずだ。もっとも、ニックネームが本名と似通っている場合は、別だが」
「アナグラム、ですかね、この間みたいに?」
 浅黄さんが、頷く。
「そうかも、な。だが、誰がディザイアのもとか、って考えても、始まらん。ここには、日本中から、邪念がやってくる。有名人ならともかく、一般市民だとしたら、確認のしようがない。まあ、ディザイアを倒すだけでも、意味はある」
 確かに、そうだ。


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