「薫子さんが亡くなる二日前に、私、一度会ってるんです。その時に、話に出たんですけど、『ある観相見の先生に会ったおかげで、望みが叶う』って言ってたんです! 弱々しかったけど、微笑みを浮かべて! それなのに、なんで、こんなことに……。私、絶対にその観相見の先生、見つけます! 見つけ出して、恨み言の一つも言ってやります! あなたがきちんと占断していたら、薫子さんは、こんなことにならなかったのよって、往来で触れ回ってやります! たとい営業妨害の誹り(そしり)を受けたって、私、絶対にその観相見を許したりしませんッ!」 しばらく話をして、仕事があるから、と沢子さんは帰っていった。 その背中を見ながら、伊佐木は言った。 「なんとかできないかなあ」 「励ます、っていうのは、ちょっとなあ」 安易にそういうことをするのは、かえって相手の気持ちを踏みにじることになるかもしれないし。僕は、そう言って、少し考えた。 伊佐木が、沢子さんに好意を持っているのは確かだ。でも、沢子さんの方がこいつのことをどう思っているか、なんてことまでは、僕は知らない。 しばらくして、伊佐木は言った。 「ちょくちょく顔を合わせるってわけにゃあいかないけど、時間、作って、彼女の話相手になってみるよ。それで、おさわちゃんの助けになれるか、わからないけどさ」 「……そうだな」 伊佐木は頷いて、その場を去って行った。
文明亭に入ると、千宝寺さん、浅黄さんがいた。紫雲英ちゃんは、「こっち」には来ていないらしい。 オムライスを頼むと、二人と同じテーブルに着く。浅黄さんの隣、千宝寺さんに向き合う格好だ。 千宝寺さんは、この間見たのと同じ、白絣の着物に、赤い袴をはいている。彼女は、こっちでは「ある財閥のご令嬢だけど、親の言いつけに背いて家を出て、今はここで、一人で暮らしている」ことになっているらしい。ちなみに「いいところの子女の、お抱え教師」が仕事だという。そう言えば、現実でも千宝寺さんは、塾の講師だという。休学中だけど、僕は大学生だし、天夢ちゃんは高校生。で、冥空ではともに「書生」「女学生」。浅黄さんは顕空では市役所の職員で、冥空では役場の職員。紫雲英ちゃんは高校生だけど、実家の中華料理屋をよく手伝っているっていう。で、こちらでは洋食屋の店員。 どうやら、顕空での身分、ていうか、立場みたいなものが、冥空でも反映されるみたいだ。 「また、妙な事件が起きてるぜ」 浅黄さんが言った。 「事件?」 僕の問いには、千宝寺さんが答えた。 「首吊り自殺が、多発している」 「……え?」 さっき、首吊り自殺の話を聞いたばかりだ。僕がさっき聞いた話をすると、千宝寺さんは頷いて言った。 「それも、一連の『被害者』の一人だな」 「被害者? 自殺、でしょ?」
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