部屋に入ると、強行犯係係長・古瀬秋恵(ふるせ あきえ)が、A四サイズの紙を見ていた。そして、国見に気づくと言った。 「おはよう、国見くん。今、北海道警から連絡があったわ。向こうで矢南徹明の刺殺体が上がったそうよ」 そして、手にした紙を渡す。その顔色は一切変わっていない。秋恵は刑事課の才媛であり、一部からは「鋼の女」とさえ言われている。 「……マジですか?」 それは、ファクスだった。事件概要、事件現場の見取り図(略図だが)が記してある。 「例の事件で、アリバイの裏を取ったときに、こちらの事件を報せておいたから、連絡してくれたの」 事件からおよそ八ヶ月。もしかして、何かが動き出したのか? だが、秋恵は溜息をついて言った。 「ファックスを送ってもらう前に、電話で話したんだけど。どうも、こっちの事件とは関係なさそうよ」 「そうなんですか?」 「ええ。確証はないけれど、一応、犯人の目星はついてるって。彼、どうやら、向こうの地回りの女(イロ)に手を出してたみたい。あの事件で、アリバイが不明だった時間、あったでしょ? その女と会ってたみたい。彼としては、トラブル防止のために、それを隠したかった。だから、証言があやふやだったのね」 やや、呆れながら、秋恵は言う。 矢南はおそらくこちらの事件に深く関与していることは、ないだろう。そうは思っているが、それでも何かのピースを失ったようで、国見は落胆した。 「一応、だけど。矢南について、もう一度、洗うわよ、国見くん」 それに応えたのは、純佳だ。 「矢南は事件に関係ないんですよね? なんで、今さら、調べるんですか?」 「念には念を、ってヤツよ。なんで矢南が北海道へ行ったタイミングで、まるで待ち構えていたように刺殺されたのか。北海道って広いのに、なぜ、矢南の立ち回り先がわかったのか。なんか、引っかかるの。偶然なら偶然でもいい。その辺、はっきりさせないと」 確かにそうだ。国見は頷いた。 「それと」 と、秋恵が国見を見た。 「国見くん、無精ヒゲ、ちゃんと剃りなさい。みすぼらしく見えるわよ」 思わず、国見は自分の頬をさすった。 純佳が、見上げるようにして、国見の顔を覗き込んだ。
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