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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第44回   弐の十四
 部屋に入ると、強行犯係係長・古瀬秋恵(ふるせ あきえ)が、A四サイズの紙を見ていた。そして、国見に気づくと言った。
「おはよう、国見くん。今、北海道警から連絡があったわ。向こうで矢南徹明の刺殺体が上がったそうよ」
 そして、手にした紙を渡す。その顔色は一切変わっていない。秋恵は刑事課の才媛であり、一部からは「鋼の女」とさえ言われている。
「……マジですか?」
 それは、ファクスだった。事件概要、事件現場の見取り図(略図だが)が記してある。
「例の事件で、アリバイの裏を取ったときに、こちらの事件を報せておいたから、連絡してくれたの」
 事件からおよそ八ヶ月。もしかして、何かが動き出したのか?
 だが、秋恵は溜息をついて言った。
「ファックスを送ってもらう前に、電話で話したんだけど。どうも、こっちの事件とは関係なさそうよ」
「そうなんですか?」
「ええ。確証はないけれど、一応、犯人の目星はついてるって。彼、どうやら、向こうの地回りの女(イロ)に手を出してたみたい。あの事件で、アリバイが不明だった時間、あったでしょ? その女と会ってたみたい。彼としては、トラブル防止のために、それを隠したかった。だから、証言があやふやだったのね」
 やや、呆れながら、秋恵は言う。
 矢南はおそらくこちらの事件に深く関与していることは、ないだろう。そうは思っているが、それでも何かのピースを失ったようで、国見は落胆した。
「一応、だけど。矢南について、もう一度、洗うわよ、国見くん」
 それに応えたのは、純佳だ。
「矢南は事件に関係ないんですよね? なんで、今さら、調べるんですか?」
「念には念を、ってヤツよ。なんで矢南が北海道へ行ったタイミングで、まるで待ち構えていたように刺殺されたのか。北海道って広いのに、なぜ、矢南の立ち回り先がわかったのか。なんか、引っかかるの。偶然なら偶然でもいい。その辺、はっきりさせないと」
 確かにそうだ。国見は頷いた。
「それと」
 と、秋恵が国見を見た。
「国見くん、無精ヒゲ、ちゃんと剃りなさい。みすぼらしく見えるわよ」
 思わず、国見は自分の頬をさすった。
 純佳が、見上げるようにして、国見の顔を覗き込んだ。


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