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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第43回   弐の十三
 もっとも、そもそも三十五分間で北海道と上石津市を往復するのは不可能だ。共犯者の存在も考えられたが、矢南の「殺しちゃったら、金、返ってこないじゃないですか」との言葉に、捜査本部では、完全に矢南を圏外においてはいないものの、重要参考人からは外している。
 また、国見の心証からしても、矢南が犯人とは思われない。確かに、何かを隠しているかのように、オドオドした風に見えるところはある。だが、それは殺人とは違うように思えるのだ。それは「殺しちゃったら、金、返ってこないじゃないですか」と言ったときの、語調・まっすぐにこちらを見た目線から、感じられた。あれは、本当に「損をした」と憤慨している者の態度だ。
 その後、いくつか集まった情報も、まさに断片で、どう繋がるのか、わからない。例えば、佐溝氏の免許証・財布・手帳・スマホは、未だに見つかっていない。
 また、事件が起きるしばらく前、佐溝氏は酔ったときに、同僚にこんなことを話したという。
「俺はね、もう借金に悩まされるこたぁないんだ」
「へえ。もしかして、『金(かね)のなる木』でも見つけたかい?」
 同僚がそう茶化すと、少し考え、佐溝氏は言ったという。
「『金(きん)の卵を産む、トンビ』かな?」
 この言葉が何を意味するのか、不明のままだ。
 そして、こんなこともわかった。殺害される前、佐溝氏は勤務時間中、必要のない「外回り」に出かけて、時折、誰かと外で会っていたらしい。ただ、相手は誰か、はっきりとは、わからないという。複数の目撃があった。目撃者の話では、相手は高齢の男性らしいことはわかるが、服装や変装などで、人相風体などはわからない。また、この人物が事件と関係あるかどうか、それ自体、わからない。
「わからないづくしだな」
 呟き、国見は給湯室を出る。そして、刑事課の部屋へ向かう。その入り口で、一人の女性刑事と会った。
「先輩、おはようございます!」
 と、元気よく敬礼する。
「早いな、お前」
「今朝は、早く目が覚めたんで」
 女性刑事は、真面目な顔で、そう応える。大学生に見えるが、結構いい歳いっているという。名前は富部純佳(とんべ すみか)。この四月から配属になった新人だ。
「先輩、無精ヒゲは、ダンディの勲章ですよ? 自分の大好物です」
 そう言って、笑う。
 異常に若い見た目といい、今のように時折、理解不能なコメントを投げてくることといい、どうしてこんなキテレツな巡査が刑事課に配属になったのか、不思議でならない。上石津署七不思議の一つにリストアップされるのではないだろうか。
「……あと六つは、なんだろうな」
「? 何か仰いましたか、先輩?」
「なんでもない、セルフツッコミだ」
 そう言って、国見は部屋に入る。


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