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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第41回   弐の十一
 上石津署刑事課、強行犯係の国見章由(くにみ あきよし)巡査部長は、仮眠室で缶コーヒーを飲んでいた。ふと、時計を見る。七月十三日、午前七時。ここに来たのが十三日の午前一時二十分。
 だが、全然、寝た気がしない。感覚としては、さっきここに来て、ちょっと横になっただけ。気がついたら、朝の七時になっていた感じだ。
 頭を二度ほど振り、立ち上がる。背伸びをし、もう一度、右手の缶コーヒーを口に持っていく。
 仮眠室を出ると、刑事課知能犯係の高田がいた。どうやら、これから仮眠を取るところらしい。
「よう、高田。どうした、浮かない顔して。……ああ、いつもか」
 軽口を叩いてみる。
「勘弁しろよ、こっちはさっきまで大騒ぎだったんだからさ」
 げんなりした顔で、高田は言う。国見と高田は同期。同い年の三十五歳だ。
 高田は頭をかきながら言った。
「小金井(こがねい)って、若い……っつっても、俺たちと同い年だが、いただろう、帝星建設(ていせいけんせつ)の社員に」
「……ああ、あの、会社の金、横領したってやつか。そいつがどうした?」
「あいつ、深夜一時頃に刑務所で自殺未遂を図ってな、一命は取り留めたが。それで、うちは大騒ぎだったって訳だ」
 昨年の十一月、帝星建設を舞台にした横領事件があった。当時、帝星建設、事業管理部・資金管理一課・管理主任だった小金井晴幸は、経理を操作して「予備費」「接待費」が実際の数字と食い違っていただけでなく、下請け会社に水増し請求をさせ、その差額を着服したという嫌疑がかけられた。横領した金額は総額一千万円余り、その金は子会社である石毛建設設計に流れていたことが判明した。
「小金井は、婿養子でな。石毛建設の社長の息子だったんだ。今は離婚されて、石毛に戻ってる」
 小金井晴幸……石毛晴幸は、裁判の結果、手口が複数で悪質だったこと、帝星建設の処罰感情などを考慮して、実刑が下された。
「その余波で石毛建設設計は倒産。取引のあった合崎電業も連鎖倒産。水増し請求に関係した企業も裁かれて、大騒動に発展した、あのヤマだ」
 もともとは帝星建設グループで多大な損失が発生し、その大部分が石毛建設設計のものだったという。晴幸としては、父を助けたい一心だったというが、罪は罪だ。
「刑務所で自殺を図って、それから、勤勉なあまり、女性事務員と二人きりで、事務所に泊まり込んで『深夜勤務』をしていた、弁護士先生のところに連絡が行って、そこから、俺たちのところに『取り調べに行き過ぎがあったんじゃないか』ってネジ込みがあって、調書やら何やら、引っ張り出して調べて、説明に行って」
 高田は凝っている肩や首をほぐすかのように、何度か回す。そして。
「そういやあ、そっちのヤマも帝星建設絡みだったよな。進展、ないんだよな?」


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