「へえ、それじゃあ、天夢ちゃんのおじいさんも、帝浄連の人だったんだ」 七月十二日、水曜日。 午後四時半、僕は中央区の古書店「平田古書」へ向かっていた。毎週火曜日と水曜日の午後五時からと、金曜日の午後一時から、僕はここで、バイトしている。面河さんの紹介だ。僕は、自宅アパートからは、バスと市電で行っている。上石津市に来てすぐの時は、紫雲英ちゃんの厚意で、彼女の家の中華料理屋さん「明宝亭(めいほうてい)」で、地理を覚えがてら、バイトさせてもらっていた。 天夢ちゃんが通う鼎?(ていと)女学院は、中央区にあって、彼女は、バスで通学しているという。で、最寄りのバス停が、ちょうど平田古書へ向かう途中の道にあるんで、たまたま出会った僕たちは、バス停まで一緒に歩いているってわけ。 で、その時の話で、天夢ちゃんのおじいさんも帝浄連のメンバーだったっていうのを聞いた。 「珍しい話じゃないですよ? テイボウのメンバーって、代々、そうだったって人が多いみたいです」 「代々、って、そんなに歴史があるの、テイボウって?」 爺ちゃんがメンバーだったのは知ってるけど、代々って、二代とか三代とかで使うような言葉じゃないと思うけど? 天夢ちゃんは、自分もそんなに詳しいわけじゃない、と前置きしてから言った。 「そもそもは、明治時代の帝都浄魔警察隊、通称『浄警』なんだそうです。文明開化で西洋文明が、ドッと入ってきたのと同時に、西洋妖怪とか邪気の類いも入ってきたんで、それを退治るために結成されたんだとか。そのうち、警察組織から分離されて在野の術士で構成されるようになって、活動場所も顕空現界じゃなく、幽界……冥空裏界に移っていって。明治時代の後半には落ち着いてきたんで、活動も組織も縮小されてたらしいです。それが、関東大震災のあとで魔災のことがわかって、当時のメンバーが中心になって、前に所属していた人、新しい人を集めて再結成されたのが、帝浄連らしいです」 なんか、長いんだな、テイボウの歴史って。 あとは、学校の話とかいろいろと話していて、ふと僕は天夢ちゃんの鞄についてるマスコットに目が行った。 「それ」 と、僕はマスコットを指さした。天夢ちゃんが見たんで、僕は言った。 「ククルカン、だよね?」 「ククルカン?」 「うん。マヤ神話に出てくる、翼ある蛇」 「翼ある蛇」っていうと、生々しい印象だけど、天夢ちゃんの鞄についてるのは、デザインが凝ってるマスコットで、どっちかって言うと、なんかのシンボリックなアイコンっぽい。 「マヤ神話がどうっていうのは、わからないんですけど、友だちは、『ケツァルコアトル』だって言ってました」 「ああ、古代メキシコでは、そう呼ばれてたらしいね」 頷いて、天夢ちゃんが言った。 「神秘学なんかに詳しい友だちがいて、錬金術でヘルメス・トリスメギストスが持ってるカドゥケウスっていう、翼がついてて蛇が絡まった杖は、ケツァルコアトルなんだそうです。ケツァルコアトルって、知恵の神様らしいので」 「……ごめん、天夢ちゃんが何言ってるか、半分もわからない」
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